ここは一体…?
意識を取り戻したはいいものの、手脚と言わず全身の感覚が無く、まったく何も見えない。
かろうじて誰かの声が聞こえるが、耳に水がつまっているかのように反響して聞き取りづらかった。
そんな真っ暗闇の中ではあったが、何故だか、不思議な安心感がある。
まるで大きく暖かい何かに、包まれているかのような…。
「………」
「これで………!」
「………んな手段があったとは!クソッ!今す………ろ!!そんなこ………すれば、お前も…」
二人、いや、三人。
聞こえる声は皆荒々しく、怒気すらもはらんでいるようだ。
「構わない。ぱっと小さな火がついて、気付いた次の瞬間には、勝手に大きく華開く…そんな、爆弾みたいな恋をした。アタシの人生、それだけでツリが来る」何とか聞き取ろうと意識を研ぎ澄ましたとき、凛と響いた声にマージンは聞き覚えがあった。
まだ幼き日に別れたとはいえ、忘れるわけもない。
この声は、母の声だ。
「俺もジュエも、とっくに腹くくってんだよ!今更ジタバタ騒ぐんじゃねぇ!!」
(今の声は、ボス!?)
何かを力任せに引き裂く音と共に聞こえた声には、やはり聞き覚えがあった。
「キャトル!まだだ!畜生っ!首だけ自分で引き千切りやがった!逃がすかこの…ぐあっ!」
ジュエの呻き声とともに、切れ味の悪い包丁で肉を切るときに似た、何か硬いものが無理やり押し込まれる感覚をやけに生々しくマージンは感じた。
(母さん!!)
とっさに手を伸ばし、声を上げようとしたとき、再び濁流に巻き込まれたように意識が暗転し、次の瞬間には、太陽を初めて見たような、強烈な眩しい光が飛び込んできた。
身動きをとろうとして、違和感を抱く。
腕と言わず脚と言わず、全てがとても短い。
おまけに、何かに少し痛いくらいに締め付けられている。
しかし不思議と、その痛みは愛おしく感じた。
「この子がアタシを…アタシとお前の間を繋いで、人に戻してくれた。…ほら、お前も抱いてみるか?」
相変わらずぼんやりと焦点の定らない瞳でも、母の顔はわかる。
滴り落ちるほどに大量の汗を浮かべ、とても荒い息を吐き出しながらも、母は赤らんだ顔に満面の笑みを浮かべていた。
そして、おっかなびっくりにその傷だらけの両手をこちらへ近づけるのは………
そしてまた、世界が暗転した。