「アニキ、フィズルガーZを借りるぞ」
「グレートを付けろグレートを。で、そりゃ構わねぇがあの高さ、どうするつもりだ?」
推進剤の限界に重力の問題もある。遥か上空の竜のもとまでは必殺のロケットパンチも届きはしない。
「言っただろ。取っておきの大砲があるって。アニキはフツキのサポート頼む!最後の一発、絶対に当ててくれよ!!」
ニヤリと微笑むと、グレートフィズルガーZと操作リモコンを小脇に抱えて海岸へ走り出す。
「もう一つの大砲…なるほどね」
マージンの走り去る先を見やり、ようやくフィズルもマージンの策を理解した。
「これが正真正銘、最後の大勝負だな」
フィズルはフツキのもとへ辿り着くと、割れずに残った最後のアンプルから薬液を砲丸に流しかける。
「徹甲弾のほうがダメージを与えられるのでは?」
「いや、これでいいのさ。我々の役目はあの繭を引き剥がすことなのだからね」
マージンとフィズルが先程双眼鏡で確認した事実がもう一つ。
繭のように見えるそれは、実際には刃状に押し固められた模造品の竜の体液だった。
無尽蔵の刃が竜を取り囲むように高速で飛び交い続けることによって繭のように見えているのだ。
マージンがなにか仕掛けようにも、これでは本体にたどり着く前にサイコロステーキである。
故に点より面、深さより広さ、大砲への道すがらフィズルがフツキに準備をお願いしたのは拡散弾頭だった。
「準備オーケーだ、マージン!」
『こちらも到着した!準備も万全だ。タイミングはそちらに合わせる!』
「「了解!」」
威勢よく返事はしたものの、弾は一発。
外せばこれまでの全てが台無し。
フツキは流石に緊張から乾く唇を舐める。
「よし…射…!?」
いざスイッチを押し込んだ所で、異常に気付くフツキ。
「どうした!?」
セットした標的座標に向かい動き始めた砲台が、突如として停止、砲身がガタンと傾き地を叩く。
「歯車がやられていたか!?」
『どうした!?』
「マージン、少し待て!砲台にトラブルだ」
『何だって!?さっきのフツキの声で点火しちまってる!』
「まずい!早くなんとか!」
慌てて砲身を持ち上げようとするフツキとフィズルだが、長大な砲身はビクともするはずがない。
「任せておけ!」
やはりヒーローは絶体絶命のピンチの時に駆け付けるものである。
「アカックさん!?目が覚めたんですね!」
「ああ!私としたことが実に迂闊だった…。マージンが逃げも隠れもせず大人しく私の特訓メニューに付き合うわけがないのだ!!」
心底歯痒く、悔しそうに拳を握りしめるアカックブレイブ。
「「………でしょうね」」
俺達だって御免こうむります。
言わぬが花の続く一文は黙っている二人であった。
「あの気味の悪い繭に当てればよいのだろう?ふん!!ぬ…おおおおおお…ッ!!!」
これでもかとばかりに気合いのこもった一喝と共に砲身が動き出す。
力技で向きを合わせた所で、アカックブレイブはその背に砲身を担ぎ上げる。
「長くは支えられん!早く放て!!」
ここでアカックブレイブをおもんばかり、ためらうことこそ無粋。
「射っ!!」
まさしく乾坤一擲。
フツキの掛け声とともに放たれた砲丸は着弾と同時に繭を包み込むようにパッと赤い光の幕を広げ、次の瞬間、見事、繭は日に照らされた霞のように消え果てるのだった。