一冊のスケッチブックと木彫りのごうけつぐまに端を発したドラゴンクエストが幕を閉じたあの日から約2か月が過ぎた。
その間、フツキ達の尽力の甲斐あって、マージンの疑いもはれ、魔法建築工房『OZ』によるマイタウンの修繕も完了し、皆はこれまで通りの日々を取り戻した。
ここは、かつてハクトとごましおの修行の場となった料理屋、虎酒家。
『本日貸切』と、入り口の看板にでかでかと張り紙のされた店内には、マージン一家に縁のある人々が所狭しとひしめき合い、つきだしにしては豪華すぎる料理の並んだテーブルを中心に、話を弾ませている。
来客の一人であるオーガの女性、セ~クスィ~は胸元に大ぶりなパンジーの花を花束の如くあしらい、全体をパーソナルカラーの真紅に染め上げた大胆なドレスを身にまとっているが、こんな時にまで武骨なリストバンドで筋肉を育てることを怠らないあたりは流石である。
そして慣れないヒールに苦戦しているあたりもまた、たいそう彼女らしいといえる。
しかしそれを誤魔化す為に背を壁に預け、シャンパングラスを傾けている姿がまた、まさしく様になっている。
セ~クスィ~がシャンパンのお供に弾ませている会話の内容は、魔装展開時における景気づけの発破の威力について。
果たしてどれくらいの規模が適切か、また、任務の内容や、発破を行う場所などに由来するTPOに関して、マージンの発破友達(パットモ)であるきみどりと、熱い会話を展開している。
そのきみどりもまた、普段の忍び装束とは異なり、花嫁より目立たぬよう抑えめの色調でありながらも、吉祥文様のあでやかな振袖に、唐織の帯で華やかさを演出していた。
テーブルを挟んで対岸では、ごくごくほんのりとシャンパンゴールドの色合いに寄せたフロックコートに身を包んだマージンが、まだ酔ってもいないのにフツキに絡んでいる。
「ねぇねぇ、今日のフッキー何だか俺よりカッコよくない?今日の主役は俺よ、俺!」
マージン曰く相棒であるフツキも、普段の動きやすい服装とは一線を画す立派なコートを見にまとい、革張りのブーツでシックに全身をまとめ上げている。
「それは多分、服装でなく中身の問題だ。仕方ないだろ」
花椒の香るターキーレッグに齧りつきながら、呆れ顔でツッコミを入れるのは、魔法建築工房、『OZ』の大棟梁ロマン。
彼もまた、ツンツン頭をボリュームある帽子に包み込み、レンダーシアに位置するアラハギーロを思わせる、オリエンタルな正装に身を包んでいる。
ロマンの言葉を裏付ける事実として、フツキの姿は、ただでさえ国家の要職を思わせるたたずまいに、相変わらずのエンジェルリングを伴う手入れの行き届いた短髪が気品を加え、はっきり言ってマージンよりもよっぽどに新郎らしい。
「ん?ごめんもう一回言って?」
しかし白々しい顔で切り返すマージンに、いつもの如くフツキのこめかみに青筋が浮かぶ。
「大棟梁の話、バッチリ聞こえてただろ!!満場一致で、『中身の問題』だ!!友人代表スピーチをくたばれの一言で終わらせてほしくなければ、大人しく控室で待ってろ!」
そもそも、新郎がこんなところでうろうろしていたら色々台無しである。
種族の違いによる身長差をものともせず、フツキはぐいぐいとマージンを控室へと押し込もうとする。
「何でしたら、私が一振りいたしますよ?」
その笑顔の裏には果たして何が潜んでいるのか?
フツキに必死に抵抗していたマージンだが、謎の小さなスティックを楽しそうに突き立てる、ピンクの長髪の合成魔法の使い手ブラオバウムの一声に、逃げる様に控室へと飛び込むのだった。
続く