「さぁさぁ皆さん!いよいよですよ!通路を広く開けて!」
フツキの鬨の声に合わせ、店内の照明が落とされ、大棟梁の用意したスポットライトが、急ごしらえのバージンロードを照らす。
セイロンがオルガンで奏で、テルルがコーラスを添える結婚ワルツが店内にしめやかに響き始めた。
「…ほら、父さん」
「お、おう」
こんな緊張はいつ以来だろうか?
ゴクリと息を呑み、一回りも二回りも大きくなったように見える息子と向き合う。
「ありがとうな、ハクト」
「へへ…」
照れくさそうに笑う息子に背を向け、マージンは、緊張の面持ちで会場内を歩き始めてすぐ、どかっと客席の一つに腰掛け、頬杖をついて調理の疲れを癒すミアキスと目があう。
「また来い、とは言ったがね。まさか、ウチで結婚式やるたぁ、ちょっと驚きだよ」
「いやぁ、女将さんの麻婆豆腐の味が忘れられなくて」
「ず~~~~~~~~~っと爆弾の話して、すっかり冷めてから喰ってただろ!忘れちゃいないよ!…まったく、息子に感謝するんだね。とっとと歩きな!」
幼き日、両親が結婚式を行っていないということを知って以来、ハクトはいつの日か、何かしらのお祝いの席を設けてあげることができないかと気にかけていた。
根無し草の日々を越え、マイタウン区画を手に入れて、格段につながりが増え、そして家族と仲間たちと共に一つの大きなクエストを終えた今だからこそ、相応しいと思ったのだ。
ミアキスの罵倒に尻を叩かれるようにいそいそと神父の前まで歩ききるマージン。
次はいよいよ、新婦の入場である。
左手にブーケを抱き、右手をハクトに引かれて、ティードはゆっくりとマージンのもとへと歩く。
父、マージンよりも目立たぬようにと、光沢を抑えた銀色のタキシードに身を包んだ息子の背中は、ティードの目から見ても、マージンが抱いた感慨と同じく、とても大きく見えた。
「………」
そしてそんなティードの姿を見るなり、まさにポカン、とマージンの頭は空っぽになった。
女将さんには口が裂けても言えないが、バージンロードというにはいささか、いや随分とぼろい赤じゅうたんの上を、キラキラと光を振りまきながら女神が歩いてくる。
女神はマージンを緊張気味に見つめ、同様に緊張からゼンマイ仕掛けのブリキ人形の様にカチカチと歩くハクトに手を引かれながら、ゆっくりゆっくりとマージンの方へ近づいてくる。
「………」
やがて目の前までやってきたのは、見慣れた妻の筈である。
しかし、何処からどう見ても、天上の女神にしか見えないその姿に、マージンの脳みそは完全にフリーズしてしまうのであった。
続く