「どう?」
問いかける言葉とともに、右の空をビシッと抜手で刺し貫きポーズを決めた。
どっと拍手と歓声が巻き起こる。
パイナップルヘアーを純白の帽子に包み込んだプクリポの少年ごましおがステージ代わりに乗っているのは、アズランに位置するチームアジト内、大広間に置かれた巨大なリビングテーブルの上。
もちろん靴は脱いでいるが、それでもなおの無作法を、今日に関しては責める者はいない。
「どう!?」
今度は左。
再び湧き上がる拍手と歓声に、今度は無数のシャッター音とフラッシュが加わった。
ごましおが披露しているのは、とあるイベントに向けて当選通知とともに贈られてきた制服である。
プレスのしっかり施された純白のカッターシャツに、落ち着きを感じる紺色の襟、胸元を飾る赤いリボンが眩しい。
襟と同じ紺色のハーフパンツには、業務に必要な種々のアイテム収納に最適なポーチが左右に一つずつ付帯する。
腰に巻かれた純白のベルトの中央で、金色のバックルがチームアジトの照明を受けて眩い光を放つ。
「どうっ!!?」
最後はつま先立ち、両手を天高く掲げた舞い立つ白鳥の如き決めポーズ。
ついにはお祝いのクラッカーを打ち鳴らす者まで現れる始末。
ごましおが、年齢を除けばまさしく立派な車掌にしか見えない礼装に身を包んでいるのには訳がある。
「いやぁ、立派になって。良かったなぁ、ごま」
ごましおのチーム仲間、ウェディの青年ミサークは、感慨深げにうっすら涙すら浮かべ、手にしている書面に何度となく目を通す。
それは、大陸間交通網、大地の箱舟の新車両竣工を祝う記念運転、その際に一般から募った一日車掌にめでたくごましおが選ばれたという通知書。
約一ヶ月後に迫るイベントを心待ちにする彼らは、よもやハレの舞台に襲いくる災厄を、知る由もないのだった。
そしてその頃。
「兄上!!!共に世界を滅ぼそう!!!!」
「えっ…あの…ちょっと、困ります………」
引き抜こうにも、ガッシリと両手で掴まれた掌はびくともしない。
いざという時に駆けつけてくれるはずの、列の誘導も兼ねた劇団員も、不審者のあんまりな発言内容と、兄上というセンシティブな単語にぽかんとしていて、助けてくれそうにはなかった。
(助けて!!ごましお君………!!!)
色違いでお揃いのヘルメット越しでも感じざるを得ない、ランランとした狂気すらはらんだ視線にもじもじしながら、ハクギンブレイブは握手会のテーブルで声に出せない悲鳴をあげるのだった。
続く