話は少しだけ巻き戻る。
(ああ…あのお客さん、また来てるなぁ)
もう何度も繰り返し演じ、すっかり身体に染み付いたアクションとセリフを回しながら、ハクギンブレイブはちらりと客席の一画に視線を送る。
お互いにヘルメット越しなので気付かれてはいないと思うのだが、バチリと視線が噛み合った気がして、ハクギンブレイブは慌てて演技に気持ちを戻す。
今日はカミハルムイにおけるドルブレイブショーの第30回公演。
今日でカミハルムイ公演は千秋楽ということもあって、会場は大盛況である。
最近は小さな子供、その親御さんと思しき大人に加えて、ごましお君曰く、大きなお友達の観客様も随分と増えた。
恐らくは件のお客様もその類だと思われるのだが…。
自分と同じく、スライダークを模したヘルメット。
遠目での確認であるが、漆黒に染め上げられ、縁を金で彩ったたそれは、とてもコスプレとは思えないほど、かなり出来がいい。
同じく黒をベースに、深く溶け込むような紺を散りばめ、それでいて、刺々しいガントレットと、竜を模したと思しき脚、その先の爪は大胆にもゴールドが用いられている。
その背中には、何故持ち込めたのかわからないが、一角の生えた獅子を象った、これまた黒と金が鮮やかな猛々しいデザインの槍を背負っていた。
兎にも角にもカッコいいのだけれど、そこはちびっ子に大人気のドルブレイブショーの観客席である。
浮いている。
それはもうプカプカと浮いている。
周りの席はごっそり空いてしまい、ついつい指を指してしまうちびっ子を諌めるお母さんや、勇気を出して声をかけようか迷う様子の大きなお友達の姿も少なくない。
そして何より困ったことに、何やらまとわりつくような、ジメッとした視線を彼(?)から感じるのだ。
それは最近ようやく慣れつつある、ファンからの憧れや思慕の感情のこもった視線とも何かが違うようで、背筋にゾクリとくるものを感じざるを得ず、ここのところのハクギンブレイブの悩みのタネであった。
そう、件の人物は、かれこれ2週間は連日通い詰めているのだ。
もはや病的である。
そして遂にその不安が、握手会会場で炸裂してしまったのだ。
ひたすら謎の勧誘を断り続けること十分ほど。
「兄上って言われてもな…。僕機械だし。どうしよう。セ~クスィ~さんに、相談したほうがいいのかな…」
カミハルムイ城から会場の警備に派遣されていた兵士に引き剥がされ、捕縛された宇宙人のごとく両サイドから腕を掴まれ連れられていく自称血縁者を見送りながら、さみしげな視線を感じハクギンブレイブは少しだけ申し訳なく思うのだった。
続く