「…ところで、随分と塞ぎ込んでいたようだったが」セ~クスィ~はフタバに話しかけながら、口に残る塩味を消すために、ずず、と未だ湯呑すら熱い、渋めに煮出した緑茶をすする。
「提言。何かしらの情報を引き出そうとしている可能性。行動目的の完全開示は控えられたし」
ケラウノスのアドバイスにより、フタバは当たり障りのない会話というものを全力で思案する。
「ここへは兄上に会いに来た。ともに、為すべきことを果たそうと。生まれてから一度も会ったことはないが、きっと協力してくれると考えていた」
セ~クスィ~はしかとフタバの瞳を見つめながら、真摯に話を受け止めた。
「…でも、そうはならなかった。兄上には何か大事な、やりたい事があるようだ。だから、俺は行く宛を失った」
「そうか。それは…難しい問題だな」
フタバはケラウノスよりも具体的な解を示してくれるのではないかと、期待のまなざしをセ~クスィ~に向ける。
「為すべきことと、やりたいことは、残念ながら伴わないことが多い。そしてさらに、自分に成し得ることとなると、また大きな乖離が生じる。我々は常に、その3つに折り合いをつけることを求められている」
「………」
フタバは、セ~クスィ~の言葉を噛み砕き、しかと飲み込もうとじっと見つめた。
「すまない、随分と抽象的な話になったな。忘れてくれ」
フタバの沈黙を困惑ととらえ、セ~クスィ~は詫びる。
「いや、参考になった。ついでに、ひとつ尋ねたい。あなたのやりたいこととは、何なのだ?」
「私か?そうだな。強いて言うなら…『正義の味方』になりたいと思っている。今もまた、程遠いと思い知らされたが、ね」
そう言ってセ~クスィ~が浮かべた満面の苦笑いを、フタバはメモリーにしっかりと記憶したのだった。
そしてお茶を飲み干すと再びヘルメットをかぶり、千切れんばかりにぶんぶんと手をふり去っていくフタバをセ~クスィ~は柔らかな笑みを浮かべて見送った。
『…あなたの判断に任せるとは言ったけれど』
そんな所へ通信が入る。
「おきょう。理想論だとは分かっている。それでも私は、力をふるう者として、できるかぎり正しくありたいのだ」
おきょうに言われるまでもない。
耳に伝わる動力コアの駆動音と微細な振動波、そして、声色同様、女性に寄っているが、亡きハクギンに酷似した相貌。
あの少女は、散々手を焼かされた、偽ドルブレイブの同型機に間違いはない。
だが。
「無作為に破壊を撒き散らす存在とは違う。命令に従うだけではない、自らの意思を、心を感じた。…今の彼女は、ただの迷い子だ。善であれ悪であれ、やがて自身で道を見出すだろう。それまでは、ただそっとしておいてやりたい」
『わかったわ。でも、監視の目はつけさせてもらう。そこは妥協してちょうだい。いいわね?』
「わかった」
セ~クスィ~の承諾の言葉に含まれる、僅かな不満も付き合いの長いおきょうは気付いてしまう。
『私だって、今の会話はモニターさせてもらっていたから、気持ちは分かるつもり。でも…』
「分かっている。分かっているさ。彼女のコアユニットを作ったのは…」
『ええ。…あの男、ケルビンなのよ』
かつて、セ~クスィ~がアカックブレイブへ転じる事となった由縁、その騒動を巻き起こした男の影が、二人に重くのしかかるのであった。
続く