「謹んで拒否します」
「な~んでさっ!?」
自室の扉を少しだけ開けて、父マージンから差し出された封筒をハクトは受け取りもせずただ首を横に振る。
「…父さん、そうやってこれまで僕に渡してきたもの、覚えてる?」
ハクトは一度自室内に戻ると、テーブルの横においている大きめの金属バケツを手にマージンの前へ戻った。
それは、たいてい誰の部屋にも設置されている、ゴミ箱というものだ。
そこから、大きな紙の筒が何本も飛び出していた。
その一つ一つを取り出し、マージンの前に広げるハクト。
渋い銀色に赤のラインが眩しい全身タイツ姿でマージンが見返る『罪(Sin)・爆弾魔ン』。
カントリーな衣装に身をつつみ、両頬に赤丸を塗り満面の笑みを浮かべたマージンが、ポポリアきのこ山をバックにして豪快にブランコをこいでいる『ポポリアの少女マージ』。
どうやって協力をとりつけたのか不明だが、女装したフツキとドルバイクに二人乗りしてパトドルバイクに追われている『爆弾魔の休日』。
陽光とレヴィヤットをバックにしたり顔で写る『トップボム マージェリック』のポスターにはわざわざ「誇りをかけて、爆砕。」とのテロップまで本家の書体で再現されている。
『マベンジャーズ エンドボム』では、敵も含めた幾多の登場キャラ一人一人をマージンが丁寧にコスプレして合成されていた。
そんな、マージンが余暇に楽しんでいる演劇鑑賞、その作品達をパロディした自作ポスターの詰め合わせは、全てハクトの部屋のゴミ箱から姿を現したのである。
「部屋に飾ってくれてると思ってたのに!」
マージンは息子の仕打ちに著しくショックを受ける。「こんなの貼ってたら、友達呼んだ時に正気を疑われるよ!!」
「…友達!そう、友達だよ、ハクト!!」
埒が明かないので、仕方なく封筒を開くマージン
「父さんこっそり、ハクトの名前で応募してたんだ」それは、大地の箱舟新車両の記念式典への招待券。
小規模ながら心温まる結婚式のお礼に、マージンとティードが抽選の応募期間中、暇を見つけては、さらには夜なべをして懸賞ハガキを送り続けた事をハクトは知らない。
だが技術をかじる者として、走行システムに従来とは全く異なる原理を用いたという新車両はハクトも密かに気になっていた。
そして、ハクトがきっと喜ぶに違いないとマージンがニヤニヤ笑顔を浮かべる理由がもう1つ。
「新車両のお披露目イベント、一日車掌に当選したのはごましお君だってよ」
「えっ、ホントに!?」
結婚式のときは慌ただしくてあまりごましおと話す時間もとれず、残念に思っていたハクトの顔に笑顔が花開く。
「あとな。そろそろ、ちゃんと今のハクギン君とも、話をしてきたらどうだ?」
マージンはハクトの心の傷を気遣いつつ、そっと提案する。
かつてハクトの目の前で命を落とした親友、ハクギン。
機械仕掛の身体から解き放たれた彼の魂と、マージン自身もまた、天へと命を運ぶ幻の列車の中で邂逅を果たした。
今ヒーローショーで活躍するハクギンブレイブは、遺された機械の身体が自己修復により再起動した際に生まれた、新しい自我だ。
あの日母とセ~クスィ~に連れられた劇場で、ハクトは彼のことを客席から涙ながらに眺めるのみで、終ぞ話しかけることは出来なかった。
「新車両には車内劇場もあるらしくてな。一日限りの特別公演で、ドルブレイブショーがあるらしい」
ハクギンブレイブが各地でショーに出演しているのも、もとはセ~クスィ~の手引きということもあり、いつでも会わせてもらえる状況であるからこそ、最後の踏ん切りもつかず、今に至っていたのだ。
「…そっか。うん、考えとく。ありがとう、父さん」ハクギンのことを思うと、やはり未だにほろ苦い感情がハクトの胸を締め付ける。
痛む心に絆創膏を貼るように、チケットをそっと抱き締めるハクトであった。
続く