開け放たれたままのマッドファクトリーの頭部ハッチ。
鎮座する荘厳な玉座の上に目当ての相手はおらず、しかし代わりに分不相応な先客の姿がある。
「…これは…団子の串?それに…どんぐりや…こっちはセミの抜け殻…。どうしてこんなものが?」
ハクギンブレイブはまだ付着した団子のカスにわずかな柔らかさが残る串を手に取り、首を傾げる。
「そこに居るのは誰だ!俺の宝物を盗みに来たのか!?」
「えっ、うわっ!!?」
鋭い声に驚き振り返った時には、既に金色の槍が凄まじい速度でハクギンブレイブに向かって投擲されていた。
「何だ、兄上か…」
信じられない話だが、あ、死んだなこれ、と放心するハクギンブレイブの目の前、鼻に先端が触れるくらいのギリギリのタイミングで、自身の投擲したケラウノスに稲光のごとく走って追い付いたフタバが、その穂先を掴んで止めていた。
「いや…何だじゃなくて!兄上!?どうしてここに!?そうか、手を貸してくれる気になったんだな!」
まるでヘルメットがぶわっと膨らんだかのよう、フタバが独り合点を加速させてこの上ない喜びの笑顔を浮かべている気配が伝わるのだが。
「あ、いやそうではなくて」
「えっ………そうか………そうだよな…」
ハクギンブレイブの否定の言葉にぽとりとケラウノスを地に落とし、フタバは途端に肩も落として影をまとう。
申し訳ないが、感情の起伏がとてもわかり易くて、ハクギンブレイブはその様子を微笑ましく思う。
やはり、彼女はまだ、生まれたばかりのようだ。
劇場での様子や、握手会での振る舞いから、ハクギンブレイブは何となくだがまだ彼女の稼働時間が短いのではないかと推察していた。
であれば、まだ間に合うはずだ。
どちらが正解なのかなんて、未だに自分だってわかりはしない。
それでも彼女もまた、使命に従うか、意志を選ぶか、猶予は残されている。
今度はハクギンブレイブの方から、フタバの手を取る。
「あの、名前もまだ知らないのになんだけど…」
「フタバだ。姐御につけてもらった。良い名前だろう?」
「姐御…?うん?まあいいや、ともかくその…え~っと…」
このタイミングでようやく、とりあえず考えなしにここまで来てしまったことに気付き、今更しどろもどろになるハクギンブレイブ。
「え~と…その…う~ん…」
「何なのだ…?兄上」
こういうのは勢いだと、誰かが言っていた気がする。「僕と一緒に暮らそう、フタバ!!」
勇み足もまた、ブレイブを冠する言葉である。
もしまだハクギンの意識がハクギンブレイブ内に留まっていたら、唖然として天を仰いだ事だろう。
そしてそんな突然のハクギンブレイブからの提案に、喜びのあまり声もなく失神するフタバと、意表を突かれ同じく声もなく、くの字に折れ曲がるケラウノスであった。
続く