「ケルビン!フタバに何をした!?」
「愚かにも慕う相手が何者か。その目を醒まさせただけだ。身に覚えはあるだろう?」
「それは…」
ゴルドブレイブが何を示唆しているのか。
そんなことは言われるまでもない。
「コア以外は私の作品ではないから褒めるつもりはないが、中々のスペックだぞ、SB-28は。なにせ、この身体と同じくアレを使っているのだから。君に倒すことができるかな?」
「フタバを倒すだと…!?バカも休み休み言え。この場に私の敵はただ一人、貴様だけだ!!」
「ふふふ。SB-28にとってもそうだといいなぁ?ふははははははっ…!ではさよならだ、アカックブレイブ。これが今生の別れとなると思うが、もし生きていたならば、来たる葉月の13日、一日限りの特別な列車においてまた会おう」
「待てっ!」
後を追うにも、様子のおかしいフタバを置いていくわけにもいかない。
躊躇する間にゴルドブレイブは霞のように姿を消していた。
あたりを警戒しつつ、倒れたフタバの肩を抱き、支え起こそうとしたアカックブレイブの手を、フタバは唐突に振り払った。
「…フタバ?」
「…ケラウノスの言うとおりだった…。俺を…騙していたんだな!」
ケラウノスをしかと握り締め、フタバは幽鬼の如く立ち上がる。
魔装に身を包んだ5人組。
彼らに一方的に鏖殺されていく幾多のマッドファクトリー、その爆発の中に舞い散る休眠中だった兄弟達の残骸、痛ましいメモリーが、再生を終えた今なお、繰り返しフタバの思考回路上を駆け巡る。
そして、常にその光景の先頭に立っているのは、赤いスーツを身にまとう女戦士。
目の前のアカックブレイブこと、セ~クスィ~だ。
『兄弟皆でみたらしを食べる』、あの夢をケラウノスがやんわりと否定した理由を、今ようやく、フタバは知ってしまった。
叶う日が訪れることなど、ありはしなかったのだ。
他ならぬ、夢を抱くきっかけを与えてくれた人物により、無惨に打ち砕かれた。
「俺も破壊するのか!?兄弟達にしたように!!」
フタバは躊躇い無くケラウノスをアカックブレイブに向かい振りかざす。
「そんなつもりは…いや…これは言い訳だな…」
フタバの絶叫。
その言葉は的確に、アカックブレイブの心を突いていた。
しかし一方で、その隙きを狙ったフタバの斬撃は空を切る。
「クソッ、戦え!俺と、戦え!!」
ケラウノスを突き出し伸び切った身体。
この上ないほど無防備だったはずだ。
しかしアカックブレイブからの反撃はない。
アカックブレイブはいつまで経とうと、一方的に繰り出されるフタバの攻撃をただひたすらかわし続けるだけ、攻撃の構えも取らなければその気配すらない。
「…いつか君に言っただろう。私は『正義の味方』になりたいと。故に、君に振るう拳は存在しない」
「訳の分からないことを…!!」
アカックブレイブの言葉を理解できない苛立ちから、フタバの攻撃はさらに苛烈さを増す。
偽ドルブレイブを生み出した老人の手による改造スーパーキラーマシン、マッドファクトリーは明確な脅威であった。
討つべき悪であった。
だが、考えなかったわけではない。
もしその中に、ハクギンのような存在が眠っていたら?
どうしても確かめたかった。
マッドファクトリーに生み出された存在が、すべからく討つべき悪なのか。
だから、本来であればドルブレイブのメンバー、ネコギシに任される筈だった任務に、リーダー権限で無理矢理頭を突っ込んだ。
はたしてカミハルムイでフタバと出会い、自らの誤ちは揺るぎないものとなった。
今、フタバが抱く怒りは、憎しみは、甘んじて自分が受けねばならない。
すまない、すまない、すまない…
けして口には出せない懺悔を胸の内で繰り返し、ただ静かに、アカックブレイブはフタバと対峙し続けるのだった。
続く