「…ケラウノス!リミッターを解除するぞ!!」
「申請を承認。リミッター解除による活動限界時間は5秒である。注意されたし」
アカックブレイブがその思いもよらぬ行動を止める間もなく、フタバはケラウノスの槍先で自らの胸部を深々と刺し貫く。
扉の鍵を開くが如く、挿し込まれたケラウノスをひねると、溶け合うようにケラウノスの石突に至るまでがフタバに吸い込まれ、その全身がゴルドブレイブと等しく、金色に輝いた。
「…!」
アカックブレイブが咄嗟に上半身を逸したのは、全くの勘によるところであった。
金色の残滓を棚引き、禍々しく変貌したフタバの爪が僅かにかすめ魔装を引き裂いて、アカックブレイブの血が宙を舞う。
続け様の回し蹴り、左の貫手、フタバの姿が霞んで見えないほどの目にも止まらぬ速度の連撃を、こう来たならば次はこう来るだろうという、戦士の勘のみに従ってアカックブレイブは回避する。
やがて長くて短い5秒は過ぎ去り、跪いたフタバの身体からケラウノスが抜け落ちるように分離した。
ケラウノスを杖のように支えとしながら立ち上がろうとするフタバだが、それが限界だった。
視界にはエラーメッセージが乱立し、石化したように身体は動かない。
その全身からは空気との摩擦とリミッター解除による発熱、双方が合わさった結果による高温で煙が立ち昇る。
「5秒をわずかに過ぎた。…反動で30分は動けない。壊すがいい」
切り札を使っても、その強さに届きはしなかった。
誰よりもフタバ自身が、完膚なき敗北を認めていた。
「………」
しかし、アカックブレイブは無言で佇み、ただ静かに、フタバを見下ろす。
「早くしろ!」
しびれを切らしたフタバの叫びに、アカックブレイブは叱られた子供のようにビクリと身体を震わせた。
「…それは…できない」
か細い声で、ようやく言葉を絞り出す。
「ふざけてるのか!?」
「………ハクギンブレイブが悲しむ」
自分でもとってつけたような言い訳だと理解しながらも、辻褄を合わせる言葉を吐いた。
「…アカックブレイブ。フタバと戦闘の意思がないのであれば、今のうちに速やかな撤退を要請する」
無為に流れる時間に、ケラウノスが外部発声で水を差す。
「…!狂ったのかケラウノス!?余計なことを言うな!お前まで俺に恥をかかせるのか!?」
「当機の存在理由はフタバの戦闘支援である。フタバの継続的な稼働を最優先事項とすることになんの矛盾もない」
「その名で呼ぶな!俺は28号だ!…あっ、おい待て!クソッ…!何で…。アカックブレイブ!早く俺にとどめをさせ!さもなくば、何度でも貴様を…兄弟の仇を取りに行くぞ!それでもいいのか!?」
かろうじて動かせる瞳で、精一杯、アカックブレイブを憎しみを込めて睨みつける。
「………君がそれを望んでくれるなら…勿論だ」
同じ言葉を残し、背を向けたまま、遠ざかっていくアカックブレイブ。
「ああああああああああああ!!!!!!」
堪えきれず降り出した激しい雨の音に、フタバの慟哭の残響が混じり合い、いつまでもアカックブレイブの耳朶を打つのだった。
続く