「………ケラウノス。俺は、なぜ負けた?」
ケラウノスとともに山奥に取り残されたフタバ。
降りしきる雨が、熱と頭を存分に冷やしていく。
「彼我のスペック上の戦闘能力差は軽微と考える。むしろリミッター解除状態においては間違いなくフタバが凌駕する」
「その名で呼ぶなと言った!!俺は28号だ!!!ケラウノス、ではなぜ勝てない!?軽くあしらわれた!屈辱だ!!」
「圧倒的な戦闘経験値の不足が原因と推察」
「圧倒的な…不足…」
ケラウノスの分析を受け、ぶつぶつと呟きながら、ようやくわずかに動かせるようになってきた身体で視線を落とす28号。
「疑問。何故胸部を凝視しているのか?メンテナンスチェックでは特に異常は…」
ケラウノスは最新の定時スキャン情報を再チェック、更には記録している先のアカックブレイブとの戦闘において、あらためて28号が胸部に攻撃を受けていないか確認する。
「ケラウノス!俺の胸部を大きくする追加ユニットはないのか!?」
「存在しない。………万が一を想定し伝達しておくが、オーガ種族に関わらず、生物の胸部の膨らみはプロペラントタンクなどの強化オプション兵装ではない」「違うのか!?ますます負けた理由が解らない!くそう!!」
「………ため息という概念を獲得」
いくら感情を持たないはずのケラウノスとて、28号の思考のパターンに疑問を抱くことはある。
「はぁ、全くだな、我が子ケラウノスよ。お前の外部出力ユニットとして、SB-28は相応しくない」
「…!!」
不意に声を上げたのは、立ち去ったはずのゴルドブレイブ。
木にもたれかかり、さもうんざりだと嫌悪感を隠しもしない目線で28号を睨み付けた。
木から離れたと思った次の瞬間には、ゴルドブレイブは28号の目の前に現れ、その手からケラウノスを奪い取る。
未だ思うように身体を動かせない28号はべじゃりと無様に泥へ突っ伏した。
「当機を速やかにフタバへ返却することを要望する」「その必要はない」
「ならば行動目的の提示を求める」
「ゴルドスパインはこの世に4つしかない希少な品なのだ。ガラクタの中で眠らせておいてよいわけがない。取り出して持ち帰る」
「分析。ゴルドスパインはフタバのコアユニットと融合している。それの摘出を敢行すればフタバは動作不能に陥る」
「その通りだとも」
「容認できない」
「安心しろケラウノス。SB-28に代わる外部出力ユニットは私が作ってやる。こんなガラクタよりも素晴らしいものをな」
「ガラクタではない。フタバだ。当機の唯一無二の僚機である」
ゴルドブレイブに反旗を翻し、精一杯の抵抗として、バリバリと音を立てケラウノス全体が雷をまとう。
「おお、おお、肩こりの解消には丁度いいな」
しかしケラウノスから伝わる電撃を意に介さず、ゴルドブレイブはむしろ心地良さそうに肩を回した。
「少し眠っていなさい。その間には終わる。これは『命令』だ」
「逃走をし…進…言…フタバ…たたたたただちに…」(最上位命令…拒否不能………強制再起動プロセス…稼働失敗…シャットダウン回避不能…猶予3秒)
命令に抵抗を試みたケラウノスだが、失敗に終わる。
残された時間でフタバの為に出来ることを演算するのに1秒、救援連絡文の作成に1秒、ギリギリのタイミングで、ケラウノスはフタバを託せる相手へ向け、何とか秘匿通信を滑り込ませるのだった。
「生みの親に噛みつくとはな。ケラウノスにも調整が必要なようだ。設計通りに作られているか、入念にチェックせねば。…その前に、まずは」
ゴルドブレイブは舐め回すようにケラウノスの全体を見回したあと、すっかり意識を失ったケラウノスを携え、28号に向き直る。
「抵抗してもいいんだぞ?」
「好きにしろ…」
「そうか。私は鬼ではない。天才だ。せめて一思いに破壊してやろう」
言葉に反し、ゴルドブレイブは両手で握り直したケラウノスを焦らすようにゆっくり、高々と掲げる。
28号は自らの死を受け入れ、静かにその瞳を閉じたのだった。
続く