しかしいつまで経っても、その身体が刺し貫かれることはなかった。
「間…一髪…だ…な…」
聞き覚えのある苦しそうな声に、28号は再び目を開く。
「どう…して…?」
眼前には、真紅に染まったケラウノスの切先。
28号を貫く筈だったそれは、ケラウノスからの救難信号を聞きつけて舞い戻ったアカックブレイブの背から飛び出していた。
ケラウノスから鮮血が一滴、二滴やがて糸となってしたたり、28号のバイザーを濡らす。
「おやおや。思いもよらない再会だ。私の別れの挨拶が台無しじゃないか」
「そう…だな。こちらとしても、二度と…貴様とは…会いたくなかったが。…ぐッ」
平静を必死に取り繕うアカックブレイブを嘲笑うかのように、ゴルドブレイブはケラウノスを引き抜くものだから、たまらずうめき声とともにさらに血が漏れる。
「ふむ。敵すら庇うとは。護るものが多くて大変だな、ヒーローというのは」
「…私は…ヒーローなどではない…。ただ貴様の敵と、言うだけ…だ」
「おお!それは恐ろしい事だ。しかし…しかしだ。今の君なら、スライムでも事足りそうだな?ははっ!」軽々とケラウノスを振り回すゴルドブレイブに対し、アカックブレイブは失血と傷の痛みから青ざめ、立っているのがやっとの様相である。
「確かに…そうだ…な。だが…忘れたか?こちらに…は、貴様よりも優れた…科学者がついている」
「なに?」
問い返した次の瞬間、がくりと膝をつくゴルドブレイブ。
「小癪な。妨害電波か!この短時間でゴルドブレイブを操る通信帯を解析するとは。おのれ、おきょう!!!」
28号にはおきょうがつけた監視の目がある。
それを通し、おきょうは既に対策を編み出していたのだ。
「どうし…た?千鳥足だぞ?すぐに仲間も…駆けつける。形勢、逆転だな」
「くっ、まずい。ゴルドスパインの回収はひとまず諦めるか」
「ケラウノスも、置いていけ!」
もはや動作不良で戦闘行動どころではなくなったゴルドブレイブの手からケラウノスを取り戻そうと、アカックブレイブはまた新たに血が滴るのも構わず向けられたその刃先を掴む。
「絶対に嫌だね!!」
互いにふらつきながらも、ケラウノスは遂にはゴルドブレイブの手から離れなかった。
28号はおろか、限界を超え膝をついたアカックブレイブにすらとどめをささず、ゴルドブレイブはやはり金色のマシンボードを展開し逃走する。
それを見送り、片膝をついたまま、血で赤く染まった掌でアカックブレイブは28号を抱き起こした。
「動ける…か?すぐにここから、離れる…んだ。できれば、大陸も移る、と、なお、ぐっ…あ…良い…」
その瞳は、灰色に染まりつつあり、もはや28号の姿を捉えてはいない。
「何し…てる…急げ…ゴっ…ふ…ぅ…」
一言紡ぐごとに、その口から、胸の傷から、とめどなく血が流れ落ちる。
「どうして…」
ゴルドブレイブと戦うためにここへ舞い戻ったならば、自分を庇う必要など、なかったはずだ。
ならば、アカックブレイブはどうしてここにいるのか?
ほんの目の前、すぐそばにある単純な答えが、今のフタバには、28号には、どうしてもわからない。
ゆっくりとアカックブレイブがまぶたを閉じると同時に魔装は解かれ、セ~クスィ~はどさりと倒れた。
魔装が押し留めていた分の血が、雨に混ざり一気に広がっていく。
「あ…」
狼狽えて後退った28号は、何かを踏み潰した感触に足元を見る。
それは、既にゴルドブレイブに踏みにじられた後、突進したドルブレイドの跳ね上げた泥にまみれ、更には雨を受けてぐちゃぐちゃになった緑色の紙包み。
足の裏に伝わった感触を振り払うように、28号はひたすらに夢幻の森から走り去るのだった。
続く