「ほら」
ぶっきらぼうに突き返されたアイスを受け取り、スプーンをそっと近づけると、魔法のようにカチカチだったアイスに沈み込む。
「…うわぁ!凄い!手品?」
「まあそんな所だ」
「はい、どうぞ!」
「は?」
せっかく食べられるようになったそれをごましおから再び差し出され、28号は困惑する。
「お姉さん、乗り物酔いではなさそうだけど、元気無いから」
「いや、お前が食べたかったのだろう!?」
「う~ん…じゃ、半分こ!」
さっとごましおはスプーンで半分に切れ目を入れ、ゴソッと持ち上げたそれを口に放り込む。
勢いをつけることでスプーンには口をつけない配慮まで盛り込んで、再び半分になったアイスを差し出すものだから、戸惑いながらも受け取らざるをえない。
ぱんぱんに膨らんだ口とアイスクリーム頭痛に苦戦するごましおを眺めながら、小さくすくったアイスを口へ運ぶ。
アイスクリームの甘みは、何故だかほろ苦かった。
「………聞いてもいいか?」
「んもむ?んぐ…なぁに?」
「何故、自分で食べようとしていたアイスを、分けてくれたんだ?」
「美味しいものは、誰かと一緒に食べたほうが、美味しいから!」
少しも間を置かず、ごましおから答えが跳ね返ってくる。
「………それは…これから壊そうとしている相手とでも…そうなのか?」
「壊す…?」
「あ、いや、すまない、忘れてくれ」
あからさまに訝しむごましおに、ぼうっとしてついあまりにも変なことを言ってしまったとかぶりをふる28号。
「あ!わかった!!劇のセリフか何かかな?それで悩んで元気が無かったんだ!…う~ん…そうだね…。大切な相手だから、一緒に食べたい、って思うよ。流石にオレも、大事にとっておいたチョコチップメロンパンを食べられた時は、一緒に食事どころか、しばらくミサークと口もきかなかったもの」
「大切な…相手…」
ミサーク、とやらが誰だかは知らないが、この少年にとって彼もまた大切な相手なのだろう。
自分にとっての兄上のような。
そこでふと、28号はどうしても考えてしまう。
セ~クスィ~にとっての自分は、どんな相手だったのだろう?
あのとき、セ~クスィ~の言葉に、もっと耳を傾けていれば、何か違っていたのだろうか?
でも今となってはもう、取り返しはつかない。
やがてごましおを見送ったのち、すっかり溶けてしまったアイスをずっと見つめる28号であった。
続く