左右から自爆が近いことを示す光を放ち、首をぐるぐると回転させながら迫りくるグレネーどりの群れを、光の明滅の間隔から優先順位をつけ、次々と処理していく。
時間に余裕のある個体を鷲掴みにしつつ、もう一体、二体と蹴り返し、低空から迫る一体に捕縛していたグレネーどりを投げつけ誘爆させる。
そんな合間に、客車に命中する軌道を描く矢を選別し払うこともやってのけた。
やがてストックしていたグレネーどりが尽きると同時、テラスの屋根を唐竹に割って振り下ろされる大剣を両側から拳を打ち込んで砕き折る。
「まだやるか?」
ぱんぱんと掌や腰マントに付いた煤を払うと、挑発するようにマッドファクトリーに問いかける。
グレネーどりのうち、けして少なくない何体かは直接マッドファクトリーにぶつけて爆発させたはずだが、変わらぬ速度で大地の箱舟を追随するマッドファクトリーにその影響は欠片も見受けられない。
「…やれやれ」
返答の代わりにマッドファクトリーの頭部から再生産、展開されたグレネーどりの群れを見やり、再度グレネーどりを倒す順番の演算に入る28号であった。
「セ~クスィ~さん!寝てなきゃ駄目ですよ!」
「そうはいかん…ぐっ…」
マッドファクトリーが地を突き破り現れた際の衝撃と振動、そして28号が撃墜したグレネーどりの爆発音はもちろん大地の箱舟中に轟いている。
大地の箱舟に潜り込んだはよいものの、ベルトの補助があろうとも到底カバーしきれない重傷を抱えたセ~クスィ~は、船内で倒れている所を前もって乗船していたハクギンブレイブに保護され、機関車両に続く船内劇場車両の役者控室にて横たわっていた。
28号とセ~クスィ~が戻らなかったあの日。
夜分になり一座を訪れたおきょうから、二人について一通りの説明を受けたが、いざ思わぬ所で再会を果たしてみればセ~クスィ~は重傷を抱えており、ハクギンブレイブは勿論、劇団の面々は残るフタバの動向についても気を揉んでいる。
だが、一切それをセ~クスィ~に対して尋ねない皆の優しさが、かえって彼女の胸の傷を痛ませる。
彼らを護らねばならない。
だからこそ、今戦わねばならぬのだ。
再び立ち上がろうとしたセ~クスィ~に水を挿したのは、ちょっぴり怒気をはらんだ友人の声だった。
『はいはい、そんなことになるだろうと、思っていました!』
「…おきょう!?」
基地内からではないのか、おきょうからの通信にはバラララ…とけたたましいプロペラ音が混ざっている。
『まだケルビンの姿は確認できません。前座で消耗してどうするつもり?』
セ~クスィ~のバイタルデータはベルトを通して筒抜けになっている。
「いやしかし…」
『今、フタバちゃんが箱舟を襲っているマッドファクトリーをおさえてくれてます』
「フタバが!?ならば尚の事…!」
『だ・か・ら!私がフタバちゃんのフォローにまわります。貴女はケルビンが現れるまでに、せめてちゃんと立てるようにはしておきなさい!』
「…はっ?いや、フォローって…?」
『私だって、ドルブレイブの一員なんですからね』
ガチャンと乱暴に切られる通信とともに、先程までおきょうの声の背後から聞こえていた機械音が窓の外から鳴り響く。
「あれは…!完成していたのか!」
セ~クスィ~の様子を確認するように大地の箱舟の窓に寄る純白の大型ドルボード。
おきょうはそのキャノピー越しにセ~クスィ~に手を振ると、向き直り大地の箱舟後方、マッドファクトリーに向けて飛び去るのだった。