「ゴルドスパイン回収プロセス停止を実行…上位命令により停止不能…再試行…再試行…再試行再試行再試行再試行再試行再試行再試行再試行…」
狂ったように再試行を繰り返すが無駄だと把握し、ケラウノスは代替案を検索、実行に移す。
「回収プロセス進行度10%………アカックブレイブに要請する。可及的速やかに当機を破壊せよ。当機のコアシステムは獅子を模したレリーフ、頭部にあたる箇所である」
それは課せられた原則である自身の保護を完全に逸脱する、本来であれば思考すらできないはずの手段であった。
「そういうわけにはいかん!ようは引き抜けば良いのだろう!?」
「現在の当機に接触することは大変危険である。せめて魔装を展開することを推奨する。…回収プロセス進行度25%…」
「そうは言われても、こちらにも事情があってな!」「…サーチした所、魔装システムに異常は検知できないが?」
「耳が痛いなまったく!ぐぅ…ッ!!!」
進言の通り、妨害阻止の為に高出力のデイン系呪文をまとっているケラウノス。
それを鷲掴みにしたセ~クスィ~の全身を、激しい雷撃が襲う。
「ぐぅああああっ…う…む、…肩こりに…丁度いいな…」
電撃にまみれながら、セ~クスィ~はけしてその手を離さない。
壁に足をつき、力任せに引き抜こうと、なおいきむ。「冗談を言っている場合ではない。そのままでは無為に消炭と化す。魔装の展開を進言する」
「…したくても出来んのだ。今の私には…正義はない…。故に魔装は応えない。わかったら、耳が痛いから…黙っていてくれ!」
「そちらの事情は理解した。…回収プロセス進行度50%…」
それきり大人しく黙るケラウノス。
髪や肉の焦げる匂いが色濃く漂い出した所で、最後の力を振り絞った28号はセ~クスィ~を蹴り飛ばした。
「…俺に構っている場合か」
わずかに動かした瞳で、28号はアカックブレイブを睨みつける。
「奴と渡り合えるのは…貴様しかいないんだ」
自身がまったく反応できなかった高速移動攻撃。
それをあの日、アカックブレイブが躱しきったのを、28号は身を以て知っている。
「…私には…もう…」
俯くセ~クスィ~の姿が、28号には初めて出逢ったあの日、打ちひしがれて一人カミハルムイを歩いていた自分と重なる。
胸の大きな傷も、ケラウノスの雷撃による火傷も、引き剥がす為に蹴飛ばしたことによる打撲も。
深く抉ってしまったその心も。
全て、自分が付けてしまった傷だと理解している。
とんでもなく迷惑な話だと、自分でも可笑しくて笑ってしまいそうだ。
それでも、身勝手ながら。
「どれだけ汚れていようが、歪んでいようが、貴女の正義は、敵である俺が保証する!」
本当は、ただ一言。
素直にごめんなさいと言えれば、どんなに良いだろう。
「為すべきこと、やりたいこと、自分に出来ること。その3つに折り合いをつけると、その果てに正義の味方を目指すと、貴女は言った!」
詫びる代わりに、胸に強く強く根付いたあの日の言葉を送り返す。
「俺の兄弟達を破壊したこと、正しい行いだったなどとは、口が裂けても言わん!だが、それを悔いているというならば。この俺の死も含めて。せめて無駄死ににしてくれるな。その犠牲の上に、己の正義を立ててみせろ、姐御。いや、アカックブレイブ!!!」
「…!!」
「………ここには、死なせたくない奴が沢山居るんだ。頼ん………」
兄上にケラウノス、劇団の皆、アイスのチビに、父親がろくでもない坊主。
それと…
よりにもよって、こんな無茶なお願いをして、危険に晒す相手こそが、中でも一番失いたくない人だというのに。
「………ゴルドスパイン回収プロセス完了。SB-28との融合を解除する」
紡ぐ言葉も中程に、28号の身体がだらりと弛緩しヘルメットが転がる。
口元に浮かぶ微笑は、矛盾に対する自嘲か、託したことに対する安堵か。
先程までびくともしなかったケラウノスが抜け落ち、支えを失い倒れ込む28号の身体をセ~クスィ~はそっと受け止め、近場のシートに座らせるのだった。
続く