「…ああ。随分と醜態を晒したが。ようやく目が覚めた」
痺れを払うため軽くかぶりを振ると、ゆらりと仁王立つ。
「ケラウノス。一つ聞く。フタバから取り込んだゴルドスパインを戻すことは可能か?」
ケラウノスの慌てようからして、それは無理なのだろうとわかってはいるが、念の為の確認を行う。
「否定。回収プロセスにより、変質、当機の初期より内包するゴルドスパインと融合している。再移植は不可能」
予想通りの答えだ。
「では、この箱舟の動力炉にあるというゴルドスパインなら、どうだ?」
セ~クスィ~はゴルドブレイブの失言から推測した残る希望を確認する。
「肯定。現在のアストルティア住民の技術力、ならびに、この大地の箱舟なるものの性能から鑑みるに、該当するゴルドスパインは至ってプレーンな状態と考えられる。当機の機能によりフタバに移植可能である」「では決まりだ。ケルビンより先に動力炉に辿り着き、ゴルドスパインを回収、フタバを救うぞ」
「異論はない。可能な限りの支援を提供する。…しかし。公共交通機関に危害を加えるのは『正義の味方』の定義を逸脱する行為と推測されるが」
「構わん。今の私はまだ、発展途上の身の上だからな!」
セ~クスィ~は悪いことをすると、あっけらかんと言い切った。
悩み苦しみ、もがき抜いたその果てに、それでも『正義の味方』になど、きっと辿り着けはしないのだろう。
だが、自分は確かにそれを目指している。
そしてそんな自分を見守り、共に歩んでくれる仲間がいる。
認めてくれた、敵がいる。
「発展途上…良い言葉である。メモリに記録する」
「では、いざ参るぞ!!」
左手にケラウノスを携え、躊躇いなくドルセリン管をベルトに叩き込む。
「ドルセリン!チャージ!!」
そして、満タンにエネルギーを詰め込んだベルトを通して、自身に活を入れるように叫んだ。
「正義を照らす、情熱の炎!!アカックブレイブ!!!」
赤く猛々しい声が、世界に響き渡った。
「落ち着いてくださ~い!大丈夫ですからねぇ」
「急に揺れるかもしれないから、しっかり座っててくださいね」
「お菓子を食べてる間に終わるからな~」
イベント運行で乗客が少ないこと、また、殆どが幼い子供であることが幸いした。
できる限り前方、劇場車両前の売店が立ち並ぶ車両に皆を誘導し、無償で提供された売店のお菓子類の助けも借りて、ごましお、ハクト、ミサークの3人は大きな混乱無く場をおさめている。
途中、劇場車両の方から血相を変えて飛び出してきたオーガ女性の姿に酷く驚き、以降そわそわしだしたハクトの様子が気になるごましおだが、状況が状況だけに場を和ませることに徹しており、まさか先の女性が憧れのアカックブレイブその人である事など知る由もない。
ハクトもまた、セ~クスィ~とハクギンブレイブが揃い、そこにハクギンと同じSBシリーズや
マッドファクトリーまで現れた事で不安で頭がいっぱいであったが、劇団の面々と共に協力して乗客の子供達を元気付けるハクギンブレイブの様子をただ見守る。
そして、今の状況に著しく気を揉んでいるのはもう一人。
ゴルドブレイブの背中を追い箱舟内を直走るセ~クスィ~、その手に握られているケラウノスである。
ケラウノスは意気軒昴なセ~クスィ~に対し、とても申し訳無さそうに切り出す。
「…作戦に支障が出かねないのでやむを得ず伝達するが。魔装を展開できていない」
そう、大見得を切ったセ~クスィ~だったが、ベルトはエラー音を吐き出さず、加えて爆発もしなかったものの、アカックブレイブの姿に転じていない。
「はっはっは!気にするな!要は気の持ちようだ」
「気分でゴルドブレイブを倒せれば苦労はしない」
現存する最後のゴルドスパインを手に入れるためには、先行しているゴルドブレイブを追い抜くことが必要不可欠である。
「それに関しては、考えがある」
余裕のあらわれか、ただの慢心か。
悠然と歩くゴルドブレイブの姿がもうすぐそこに見受けられる。
「おきょう!」
間近に迫ったゴルドブレイブの背を強く睨みつけ、歩みは止めずに仲間へ通信を送るセ~クスィ~であった。
続く