大地の箱舟に異変が起こったのは、セ~クスィ~がスカイドルセリオンとゴルドブレイブの戦闘により半壊した車両を瓦礫に足を取られつつも何とか通り抜け、次の車両の扉に手をかけた時だった。
箱舟全体がガタンと外からではなく内からの振動で激しく揺れる。
「今のは…!?」
「…アカックブレイブ、あまり時間が残されていない模様だ」
「何だと?」
「ゴルドスパインが短時間とはいえ、至近距離に4つ揃った事により、相互にエネルギーの過剰な向上作用が見受けられる。フタバや当機、ゴルドブレイブにとっては制御系統の…」
「話が長い!要点だけでいい!」
「この大地の箱舟は暴走、その果てに動力炉はゴルドスパインを巻き込んで爆発すると思われる」
「それを早く言………ッ!!」
再度の衝撃、セ~クスィ~がバランスを崩し転倒するほどの大きな脈動とともに、轟音をあげて大地の箱舟は急加速するのであった。
ごましおたちの乗る車両でも、突然の急加速に悲鳴が上がり、加えて機関車両に乗っているはずの操縦士と動力炉のメンテナンススタッフが息も絶え絶えに先頭方から逃げ込んでくるものだから、混乱が収まらない。
「どうしたんです!?」
「どうも、こうも…急に動力炉が異常な反応を示して…」
汗だくの操縦士を介抱しつつ、小窓を通して隣の車両を覗き込んだハクトは思わず息を呑む。
動力炉から伝わる熱の影響だろうか、機関車両に連なる劇場車両内は陽炎が発生しモヤがかかったようにはっきりしないが、錯覚でなく、舞台装置や客席の木材は炎に包まれ、サイドテーブルなどの金細工がドロドロに溶け始めているのが確認できる。
「一体何が…!?」
驚きを隠せないハクトのもとへ、勢いよく扉を開く音が飛び込んでくる。
「アカ…セ~クスィ~さん!?」
とても慌てた様子のその姿、別段セ~クスィ~にとっても隠し立てするような事でもないのだが、今の状況でアカックブレイブの名を出す事はいたずらに混乱を招くと思い、呼び直した。
「ハクト君か!丁度いい、ハクギンブレイブも、すぐに乗客を隣の車両へ誘導してくれ!」
今しがた駆け抜けた車両を指差すセ~クスィ~。
「「わかりました!」」
ビシィッと敬礼一つ、テキパキと言われたとおりに取り掛かる二人の姿に、やはり件の人物は何者なのかと訝しむごましお。
「…ねぇねぇハクトくん、あの人って?」
「ああ、うん、えっと…まあいいか、セ~クスィ~さんは、アカックブレイブだよ」
乗客には聞こえぬよう、小声で耳打ちする。
既に乗客の誘導に取り掛かっている最中で、ハクト自身、初めてアカックブレイブことセ~クスィ~が母ティードの繋がりでマイタウンに来訪すると知った日から期待と興奮で眠れぬ日々を過ごしたことを、すっかり失念していた。
「あ、ああ、あか、アカ…?」
状況に対するストレス、未曾有の経験に対する緊張、そんな張り詰めていた中での、まさかの遭遇はごましおの意識をサクッと刈りとった。
「うおっと、とぉ!?」
間一髪、抱きとめるミサークだが、その腕の中でごましおは一時的にすっかりポンコツと化していた。
もとより、やや足早な乗客達は、子供が多いがそのほとんどがごましおよりも背が高い。
何かのはずみでもみくちゃにされないかと気を揉んでいたミサークにごましおを任せて、ハクトとハクギンブレイブは乗務員を残し全ての避難を完了した。
動力炉を半ば破壊するつもりでいることを流石に関係者には説明せねばなるまい。
最後の人払いに、ハクトとハクギンブレイブも車両を移るよう促すセ~クスィ~に対してケラウノスが割って入った。
「ハクギンブレイブには依頼がある」
「…今の声は?」
ハクギンブレイブを擁する劇団のもと、ずっとフタバと共にあったケラウノスであるが、ハクギンブレイブに話しかけるのは今が初めてであった。
「当方はフタバの再起動の為、動力炉に内蔵されている有機物質、ゴルドスパインを必要としている」
「えっ?槍?フタバの槍が喋って…ゴルド…何て?いや、それよりもフタバを再起動…?彼女に何か?」
情報量が多すぎてパンクしかかるハクギンブレイブにケラウノスは無情に告げる。
「フタバは現在動力コアを失い機能停止状態である」「えっ!?」
機能停止、それはつまり、死にも等しいのではないか?
セ~クスィ~は、喋りすぎだ、とべらべら余計なことを言うケラウノスの口をおさえる。
「心配するな、私が何とかする」
「否。状況は変様している。如何にアカックブレイブがオーガ種として規格外であろうと、現在の動力炉の発する熱量には耐えられない。ハクギンブレイブが適任である」
そもそも口をおさえられようとも、獅子は飾りである。
ケラウノスはお構いなしにセ~クスィ~にとって到底許容できない提案を続けるのであった。
続く