本作品は中島諭宇樹先生Vジャンプ連載作品『蒼天のソウラ』ならびに、主にVジャンプHP上にて掲載していらっしゃる『素麺のソーミャ』を題材にした二次創作になります。
ドラクエX内の某キャラクターとイメージが異なる点等、諸々ご理解ご了承下さいませ。
◇◇◇
荒野に佇む一台のドルボードに跨がるは、オーガ種族の冒険者、ティード。
「ふぅ…ずいぶん遠くまで来たわね…」
相棒である真紅に染めたドルブレイドを休ませつつ、うなじもしっかり見えるほどの短めの金髪にまとわりついた砂埃を払い、風防の為のゴーグルを上げて、岩間から覗く夕陽を眺め一息をつく。
長い運転に凝り固まった肩をぐるりと回すと、疲労と滲む夕陽に想起されて食欲が首をもたげる。
それは、彼女がもう随分と昔にこなしたクエストの話。
「この村に行きたいんです」
大地の箱舟や馬車による交通網がいくら発達したとはいえ、取り残される寒村は無くなることはない。
まだ年端もいかないように見えるウェディの少女と、ほっかむりを被って顔を隠し、剣を背負った如何にも怪しげな巨漢の二人連れ。
隠すつもりがあるのかないのか、お尻からは尻尾が飛び出し、ピンピンに尖ったヒゲが所在無さげに萎れている。
(珍しいな…巨猫族か…)
かつてはウェディと肩を並べ戦ったとも言われる、魔物の中でも知性が高く、友好的な部類にあたる種族だったはずだ。
隠したいのであれば無下に暴くこともない。
一瞬、誘拐などのトラブルも疑ったが、どうやら主導権は少女のほうが握っているようだ。
「その村なら、薬を届けに行ったことがあるわ。お安い御用よ」
素性は気になるが詮索するのは野暮というもの、払いも良いクエスト依頼に二つ返事で答えたティードだった。
はたしてグレンから走り出し、サイドカーに腰掛けた巨漢はガーガーといびきをかき始める。
「…ごめんなさい」
「良いって良いって。貴方達は依頼主なんだから。それより、ちゃんと掴まっててね」
「はい」
少女は短く答え、タンクトップの裾をなおしっかりと握り締める。
ティードは四人乗りドルボードなど気の利いたものは所持しておらず、ドルブレイドを改造してサイドカーを取り付け、少女はタンデムで乗せている。
小さな手の力でキュッと服を引かれる感覚が、まだ幼い頃の息子ハクトを乗せた時を想起させ、胸が暖まると同時に、そういえばあの時も夫であるマージンがサイドカーで呑気にいびきをかいていたっけかと苛立ちが蘇り、ティードは運転に集中するべく回想をシャットダウンした。
そのままさらに小一時間は舗装されていない荒れた道をひた走り、目的の村へと辿り着く。
「ああ、もうこんな時間…!間に合うかしら?あ、せっかくだからお姉さんも着いてきて!」
ドルブレイドを停めるなり走り出す少女。
巨漢の連れも、もはやなりふり構わず、猫顔を剥き出しにして少女に手を引かれドタドタと駆けていく。
職業柄、関わらないスタンスをとっているが、二人の目的が気になるのも事実。
どのみちクエストには帰りの足も含まれている。
後を追うティードの前に現れるは、かすかな明かりの漏れる一軒の小屋。
小さな小さな看板に、『バクダン素麺』とシンプルに書かれている。
「3人分、注文いいですか!?」
赤い暖簾に文字通りなだれ込み、席にも座らず少女は叫ぶのだった。
続く