ほんの少しだけ時間は遡り、ミサークがゴルドブレイブと奮戦するさなか。
動力が落ち、キャノピーから注ぐ斜陽に照らされるコクピットの中で、おきょうはずっと小首をかしげていた。
うっかり飲み込んでしまった魚の小骨のような違和感がどうしても拭えない。
かろうじて作動するボイスレコーダーのボタンを操作して、何度も何度も繰り返し再生するは、先のセ~クスィ~とケルビンのやり取りだ。
何か、どこかが、どうしても引っ掛かる。
繰り返し巻き戻しと再生ボタンを押し続け、指がひん曲がって固まりそうになった頃。
「…!そう、そうだわ!ここよ!!」
それは、ケルビンがセ~クスィ~に向けた言葉。
『…つくづく君はしぶといものだな。とはいえ、知っているぞ。もはや魔装展開もできるまい…』
ケルビンはセ~クスィ~が生きていたことに、確かに驚いている様子だ。
にも関わらずその上で、魔装展開できないと何故か知っている。
「何事にも用意周到な相手だった。もしかして…」
おきょうは懐からタブレット端末を取り出す。
各員が腰に巻いた魔装のドライバーを通し、メンバーのバイタルなど、実に様々な情報が確認できるようになっている。
今、自分の行動に、アカックブレイブの復活がかかっている。
緊張に乾く唇を舌でペロリと湿らせ、凄まじい速度で端末を操作するおきょう。
そんな最中も、セ~クスィ~とケラウノスの言い争いは続いていた。
「馬鹿を言うな!」
「馬鹿ではない。正確な数値データと生物学的限界から導き出した解答である。失敗はすなわちここにいる全員の死を意味する。根性論で事態は解決しない」
ケラウノスの淡々とした口調も相まって、『死』、という言葉にあたりが静まり返る。
「重ねて進言する。極高温の客車を通り機関車両に到達、動力炉よりゴルドスパインを引き抜き生還することが絶対条件である以上、選択肢は唯一、機械の身体をもつハクギンブレイブに委ねる他ない」
「魔装があればそれくらいは…」
「今や展開不能なのでは?仮に魔装を展開したアカックブレイブであっても不可能である。ゴルドブレイブが戻って来たことも察しているはずだ。時間がない。決断されたし」
ケラウノスはなお食い下がるセ~クスィ~の言葉を食い気味に切り捨てる。
事実として猶予は長くない。
ゴルドブレイブが再び箱舟に乗り込んだことで漂いだした、ミサークが感じ取ったひりつくような戦場の空気は、勿論、より肌に馴染みのあるセ~クスィ~も察知していた。
「…敵のもとへ行ってください、アカックブレイブ」「ハクギンブレイブ?気にするな、全部私が何とか…」
「僕だって、アカックブレイブが認めてくれた、ヒーローの端くれなんです。ちょっと部品を取ってくるぐらい、朝飯前ですよ。でも、戦いの役には立てません。適材適所、助け合いましょう」
「く…しかし…」
「それに、フタバの命がかかってるんですよね?良いトコ見せたいじゃないですか、お兄ちゃんとしては」セ~クスィ~に見えるはずもないが、ハクギンブレイブはヘルメットの中でニッコリと笑ってみせる。
機械仕掛けのハクギンブレイブとて、死という概念に理解はある。
それに対する恐怖もまた然り。
だが、ハクギンブレイブの決断に、微塵の迷いもなかった。
そして漢の決意に水をさすほどセ~クスィ~も無粋ではない。
「…任せたぞ、ハクギンブレイブ!ケラウノス!」
いざ決まれば、もたつく余裕は一切ない状況。
一喝し背を向けると一直線に駆け出し、乗客の避難している車両を走り抜け、ゴルドブレイブを食い止めるため一思いにミサークが鍵をかけた扉を蹴り破るセ~クスィ~であった。
続く