ハクギンブレイブはそっと変身を解き、ハクギンからの贈り物、ハクトにとって思い出のハクギンの姿を見せる。
「初めまして、っていうのも、何か変な感じですね。ふふ」
照れ笑いを浮かべるハクギンブレイブ。
その言葉は、ハクトがタイミングを逸して伝えそびれた切り出しと、全く同じだった。
「ハクギンさんの残してくれたこの身体を、心配してくれてありがとう。確かに、今からちょっと、危ないことをしますが…。僕の決断をきっと、ハクギンさんも許してくれると思うんです。僕の中にある、ヒーローになりたい、という想いは、ハクギンさんにもらったものだから」
「………」
親友と過ごした時間は、ほんの僅かだった。
それでも確かに、ハクギンブレイブに言われるまでもなく、ハクギンならば、同じ決断をしただろうと、ハクトにも痛いほどに理解できた。
「必ず、目的を果たして無事に戻ります。その時は…また、友達になってくれますか?僕にこの身体を託してくれたハクギンさんと、同じように」
ハクトがもちろんと叫んだ言葉は、嗚咽にまみれて聞き取れたものではない。
それでもハクギンブレイブは在りし日のハクギンの笑顔で、ニッコリ微笑んだ。
ゆっくりとハクトが離れたところで、ケラウノスの漆黒の角が深々とハクギンブレイブを刺し貫く。
「戦闘システムのアンロックを試行…失敗…プロフェッサーおきょうによる強固なプロテクトの存在を確認…クラックプログラム作成…再試行…失敗…再試行…失敗…クラックプログラム強化再設計…再試行…失敗…再設計…試行…アンロックに成功」
静まり返った船内に、ただ淡々とケラウノスの声が響く。
おきょうのプログラムを破壊しながら、後遺症など残らぬようその内容を解析していたケラウノスは、不思議な概念を覚える。
このプログラムは、戦うために産まれたSBシリーズからその力を奪うものだ。
SBシリーズにとって存在意義を奪う猛毒に等しい。
しかし、微に入り細に入り、各種リミッター数値は緻密に標準的なエルフ種族同等に調整されており、また、もちろん戦闘要項は満たないが、運動経験の蓄積でそのリミッターには一定の緩和までかかる、すなわち、SBシリーズが一人のアストルティアの民として生活、成長していくことができるようになっているのだ。ケラウノスの演算能力をもってしても、これは生半可に作れるものではない。
SB-03、ハクギンブレイブは反旗をひるがえし、ドルブレイブに協力し創造主と戦ったという。
とはいえ、本質は敵である存在に、おきょうは何故そこまでのリソースを割いたのか。
そして何よりも、害を為すプログラムであるはずなのに、そこには間違いなく敵意が微塵も存在しない。
矛盾している。
その矛盾に、ケラウノスはもう一つの懸案事項を重ねる。
スリープ状況下、加えて、父とも呼ぶべき設計者、ケルビンによる最優先命令によれど、自身は本来護るべき僚機、フタバに深刻なダメージを与える行動をとった。
そして今、そのフタバを再起動する為に、ケルビンの意図せぬ行動をとっている。
矛盾している。
矛盾は、正さねばならない。
出口の見えかけた思考と並列して、ハクギンブレイブのシステム処理も佳境にさしかかる。
「ドルセリンエネルギーによる個体名ハクギンブレイブのさらなる拡張性を確認…機能をアンロックする為に当該機の承認を求める」
「もちろん、承認する!」
力を手に入れる。
皆を守るための、強い力を。
太陽に手を伸ばすが如く、ハクギンブレイブは強く叫んだ。
「了解。…以上でハクギンブレイブの機能制限解除およびアップデートを完了する」
ケラウノスが抜け落ちると同時、ハクギンブレイブはバチバチと雷光の残滓を迸らせる。
エルフの少年、ハクギンの外観は変わらず、しかしハクギンブレイブは体内を駆け巡る途方も無いエネルギーを感じとっていた。
「ドルセリン、チャージ!」
今までのような、ただのポーズではない。
ベルトに注入したドルセリンが、滾るマグマの如く全身に浸透していくのを感じる。
「魔装、展開!!」
演劇中で何度も叫んだ言葉が、今、真の意味で紡がれる。
「闇に生まれし一筋の光!ハクギンブレイブ!!」
名乗りの口上は、勝手に浮かんだ。
そっと誰かに背中を優しく押されたような感覚は、きっと幻ではない。
ハクギンの柔らかな笑みが、ハクギンブレイブの心に浮かんだ。
「行くぞ!ケラウノス!!」
ケラウノスをしかと握りしめ、全力で駆け出すハクギンブレイブであった。
続く