「なかなか頑張るじゃないか。とはいえ、ブランク体はまたいくらでも生み出せる」
一体、また一体と、先程ミサークも相手した雑兵を、正拳や座席を避けるため飛び上がっての回し蹴りで沈めていくセ~クスィ~だが、ケルビンの言葉の通り後から後からブランク体は立ち上がる。
ケルビンはといえば、状況を理解しているのかいないのか、のんびり後方の座席に腰掛けて、支配者然と頬杖をついていた。
忌々しいがそれでいい。
わずかでもハクギンブレイブのために時間が作れれば。
力の限り、ブランク体の第二波をいなしていくセ~クスィ~の魔装ベルトから、唐突におきょうの声が響く。
『新種の毒とは、やってくれたわねケルビン』
「…おや?はは、ようやくお気付きか」
ケルビンは悪びれる様子もなく、タネが明かされたのを、逆に遅いと罵ってみせる。
『精神にのみ作用する、データベースにもない薬物。この金色の粒子…恐らくは、ゴルドスパインの研究のさなかで見つけ、精製したのでしょう。そしてケラウノスを通して注入した。セ~クスィ~、今の貴女は、その影響を受けて強制的に怯えの状態に落とし込まれている。ベルトが反応しないのは、そのせいよ』
毒物が未知のものであったこと。
そして、セ~クスィ~がそもそも怯えのバッドステータスに対して、ありえないほどの高い耐性を誇っていたこと。
それら2つの要因で、気付くのが遅れた。
『ごめんなさい、私としたことが…』
「いや構わん!付け込まれたのは私に責がある。…で、解毒は可能か?」
おきょうとやり取りしながらも、左から飛びかかってきた敵をヘッドロックで抑え込み、反対の腕で別の相手を裏拳で黙らせる。
『検体が貴女だけでは…。悔しいけれど現状では薬学的には打つ手無しよ』
「了解した」
『ただし…原因が何であれ、理由はわかった。規定値まで感情を昂めれば、魔装展開はできるはずよ』
「そういうことならば…!」
ヘッドロックしていた個体をそのまま身をよじって背中から地に叩きつけ、ベルトからドルセリン管を抜き放つ。
「何度でも!成るまで試すまでだ!!ドルセリン、チャージ!魔装展開!!」
しかし再びの失敗。
セ~クスィ~は空になったドルセリン管を投げ捨て、魔装展開を試しているうちに距離を詰めた敵に対処する。
「しかし毒か…。言い得て妙だな。ケルビン、貴様の攻撃がきっかけだとはいえ、どのみち私はいずれ、己の歪んだ正義に対する疑念という毒に、侵されていたことだろう」
拳に沈む2体、3体。
続けて最後に振り絞った正拳は大きく敵を吹き飛ばし、再び魔装展開を試す余裕ができる。
「感謝する。貴様のおかげで、フタバという、私を真っ向から受け止めてくれる好敵手がいる絶好のタイミングで、己の弱さに向き合うことができた。だから私はまた、そしてこれからも、闘える!!」
『己の正義を立ててみせろ』
フタバから贈られた言葉は、今なお胸に力強くこだましている。
再度ベルトのホルダーからドルセリン管を抜き放つ。
「清も濁も併せ呑み、私は私の道を征く!」
セ~クスィ~の猛る心に呼応し、はち切れんばかりにベルトへ溜め込まれたドルセリンエネルギーが金色の粒子となり漏れ出し、セ~クスィ~の全身を淡く照らし出す。
「ドルセリン・チャージ!!」
限界をとうに超え、さらにこれでもかとなおドルセリンを詰め込まれ、ついにはベルトからエネルギーの奔流が巻き起こる。
「魔装!!」
何度も失敗しておいて不思議なものだが。
「展開ッ!!!」
今この瞬間、まるでただ呼吸をするように当たり前に、魔装は展開できるとセ~クスィ~には確信があった。
「正義を照らす、金色の炎!アカックブレイブ!!!」
己の行いが正義なのではない。
そう、照らすのだ。
直向きに心に炎を燃やして。
不撓不屈の輝きが、セ~クスィ~を包み込む。
毒はまばゆい勇気に照らされ消失し、ゲインを振り切った感情と余剰エネルギーが一時の祝福をアカックブレイブにもたらす。
もとより金色のレッグガードや背の日輪と同じく、普段の濃紺ではなく金色に染まったボディアーマーとガントレットは見た目だけでなく強固に形作られ、昂まったテンションと合わせて通常以上の筋力増強効果をはじき出した。
更には、紋様も含め金色に染まった背の日輪から、太陽のフレアの如く断続的に放たれる闘気の波動に晒されて、ブランク体は崩れ落ちた端から粉と散り、完全に消失していく。
「面白い!面白いぞ!その技術、ぜひ倒して持ち帰るとしよう!!アカックブレイブ!!!」
「やれるものなら、やってみせろ!!ケルビン!!!」
金色のヒーローとヴィランは、ともに光の速さでぶつかり合うのだった。
続く