大きなクエストが、終わった。
ヴェリナード近郊の地下に造られた、超駆動戦隊ドルブレイブの数ある秘密基地の一つ。
そこには海底離宮にて大破したドルセリオンもとい、ドルブレイブ各メンバーのドルボードが運び込まれ、おきょうの作によるメンテナンスマシーン達が慌ただしく修理にあたっている。
そんな中、基地に着くなり休息もとらず、シュミレーションルームへ向かう道すがら、簡素なテーブルに用意されたチープな即席のブラックコーヒーを疲れを誤魔化す為にあおり、空になった紙コップを丸めてゴミ箱に放り込む。
続いてメギストリスのベーカリーから差し入れされているシンプルなドーナツを一つ行儀悪く咥え、もう一つを手に取って、同じタイミングで帰還した仲間たちがいびきをたてる仮眠室に見向きもせずに再びシュミレーションルームへひた歩く。
プクリポスタンダードなサイズのドーナツは、女性とはいえオーガである彼女、ドルブレイブのリーダー、セ~クスィ~の口にはやや、いや、かなり小さい。
咥えていた一つ目のドーナツは既に口の中へ消えた。生地は空気を多く含みふわふわに仕上がっており、口当たりはまるでスポンジケーキのようにとても軽い。
生地に配合する砂糖は最小限に抑え、店舗裏で飼育している鶏の朝どれ卵と、エピステーサ丘陵産小麦粉の素材の甘さで勝負する素朴な生地がドレスのように身にまとうは、風味を損なわぬ程度にほんのりシナモンを効かせたサラサラのパウダーシュガー。
弾むような甘さに促され、2つ目のドーナツもあっという間に姿を消した。
コーヒーは後にすれば良かったかと思いつつも、口に残る甘さは心地良い。
親指の腹に付いた砂糖をちろりと出した舌先で舐め取り、大型の球体水槽のようなシュミレーションポッドに潜り込み、低い天井からケーブルで吊るされた、鼻先までをすっぽりと覆うヘルメットを装着する。
慣れた手付きで操作し、ヘルメットのモニター内、仮想空間に顕現させるは、昨今、相手したばかりのレイダメテス尖塔兵。
あってはならないのだ。
厳格で偉大なる王。
そびえ立つ城塞。
由緒正しき信仰の象徴。
それらと等しく、アストルティアを護る砦たるドルセリオンが敗れる姿は、それを見た者に絶望を与えてしまう。
故にドルセリオンが膝をついたのが海底離宮という閉鎖空間であったのは、不幸中の幸いであった。
だからこそ励む。
次に強敵と相見えた際には遅れを取らぬように。
海底離宮を再現した仮想空間内で、セ~クスィ~ことアカックブレイブの駆るドルセリオンを取り囲むようにそびえ立つ3体のレイダメテス尖塔兵。
如何に巨大な難敵と言えども、苦戦した時と違い既にドルセイバーもドルキャリアも装備した完全な状態、そして何より、一度倒した相手に苦戦するアカックブレイブとドルセリオンではない。
火炎弾の斉射を巧みにかわしつつ、ドルセリオンは華麗なステップで敵の狙いを操って、3体をある意図をもって進ませる。
「…!そこだッ!!」
一並びになったレイダメテス尖塔兵を、ドルセリオンは駆け抜けざまのドルセイバーの一閃、ウィニングラリーフィニッシュで斬り裂いた。
「その手にはかかるか!」
ドルセリオンを遥か上回る爆炎を目隠しに、飛びかかってきたレンガ造りの左腕を飛んでかわし、すれ違いざまに上から蹴り落とす。
自身の左腕が砕けたのも意に介さず、鎮まった爆炎の向こうに佇むは、海底離宮にてソウラがエクステンションラインの力で喚び起こした巨体、暗黒の魔人だ。
ドルセリオンとの距離がまだ遠いうちに、残る右腕を掲げ上げ、振り降ろす。
大きく開かれた掌がばっくりと地を割ると、拡がっていく地割れを追うように地中から岩くれの牙が無数に突き上がり、ドルセリオンへと進み来る。
迫りくる脅威を冷静に眺め、ドルセイバーを逆手に構え、腰溜めに姿勢を低くしたドルセリオン。
カッとアカックブレイブが目を見開くと同時、もはや巨大な剣山と化した大地を縫って、ドルセリオンが疾走する。
「ドル…ストラーッシュ!!!」
あっという間に暗黒の魔人に肉薄すると、逆手に構えた粒子エネルギーの刀身が地を切り裂くままに、ドルセリオンの全身の捻りを加えて下段から袈裟に斬り上げる。
今度こそ驚愕した表情を浮かべたように見える暗黒の魔人が爆砕すると同時、シミュレーションが終了し、アカックブレイブの眼前が暗闇に戻る。
しかしアカックブレイブはすぐさままた諸情報を入力し、次なる戦いに挑むのであった。
海底離宮を舞台としたクエストは終わりを告げた。
しかし、アカックブレイブと、彼女の率いる超駆動戦隊ドルブレイブのアストルティアを護るための戦いは、まだまだ続いていくのだ。
~完 しかし冒険は続く~