大きなクエストが、終わった。
過分に水気を帯びた風が心地良い、ホタル舞う夜のスイゼン湿原。
本来の生業である盗賊らしい闇に溶け込む黒の衣装に着替えたテルルは、懐からまるで指輪でも納めてありそうな小さな箱を取り出した。
カパッと蓋を開ければ溢るるは甘ったるいバナナの香り、そしてその奔流を押し留めるようにキャラメルの大人の風味が巻き付き、甘みと渋みの絶妙なハーモニーとなって調和する。
テルルはこの小さな小さな宝物を受け取った時のことを思い出す。
「ハードなライブだったねぇ…」
無事に帰還したヴェリナードにて、すっかり干からびた声を漏らしたのは、ドワ娘で構成されたアイドルグループ、DWK48より参戦した、普段はクールなユイリィア。
「もうスタミナ空っぽだよ~」
同じくDWK48から出張組の、元気が売りのむーですら、青い顔で俯き加減だ。
「…ムリ…もう一歩も動けない」
「あんたねぇ、そもそもずっと自分の足で歩いてないでしょうが」
指摘の通り、無骨な斧を改造したギターを背負うパンキッシュなウェディ、なぎの肩には、狩りの獲物の如く小柄なプクリポの小悪魔系アイドル、いろりんが担がれていた。
「まあでも、私これまでソロ活動主体だったから、結構楽しかったかも」
おずおずと切り出したのは、先陣をきるパートの多かった清純派アイドル、ゆなな。
「そうね!やっぱ、パーティってのは、悪くないわ」体格の良いオーガ種であることを活かし、動きの大きいダンスパートばかりで疲労困憊なテルルもまた、肩を揉みほぐしつつゆななに相槌をうつ。
彼女たちが、ソウラパーティの頼れるブレイン、ギブの発案によりマッチングしたインターコンチネンタルアイドルユニット、『ExtE』の面々だ。
彼女たちの歌唱は、味方に様々な恩恵をもたらす。
それは彼女たちが歌に強い想いを込める故に生じる、特殊な効果であると同時に、込めた想いの分だけ、肉体のみならず精神の消耗という形で反動が現れていた。
「実はこんなものがあるの」
労をねぎらうべく、ゆななは懐から6つの純白の小箱を取り出し、一つは自分、他を5人に一つずつ手渡した。
「何々?うわぁ、可愛い箱!」
「中身は何かしら?」
一斉に小箱が花開く。
ポンと小さな音が弾むとともに、箱の中からは丸く可愛らしいお菓子が姿を見せるのであった。
続く