「マカロンだ!!おっしゃれ~だねぇ!」
先程までの疲労なんてなんのその。
6人の顔に張り付いていたくさった死体のような表情が一瞬で弾け飛び、皆一様に歓声を上げる。
「蓋の隅に…サイン?パティシエさんのものかしら?」
金で刺繍された筆記に最初に気付いたのはユイリィア。
「えっ…これってまさか!愛のマカロンなの!?」
つられて見やり、途端にいろりんから驚愕の声が上がる。
それは甘味をこよなく愛する者であれば知らぬはずもない、異世界『スウィ~ツランド』にてファルパパ神のもと腕を振るっているという伝説のパティシエ、ミローレの作による、入手困難なまさに幻のお菓子。
彼が妖精王たちの集いに給される自作のスイーツ、その試作品の反応を見る為にふらりと現れた所へ出くわすという、天文学的な幸運がない限りは、彼の作品を入手することは能わない。
「夜中に浜辺で歌っていたら、不意にいらっしゃってねぇ」
今思い返しても、それは夢だったのではないかと思う出来事であった。
海底離宮突入の前夜、一人浜辺で瞳を閉じ、しみじみと歌い上げたゆなな。
余韻に浸りつつゆっくりと瞳を開くと、そこにミローレは立っていた。
「…素敵な歌声に惹かれて、ふらりとやってきてしまいました」
金髪の麗人は、穏やかな拍手でゆななを労う。
「生憎、路銀すら持たぬ身、代わりにこちらをお納めください。今の曲、本来はお仲間の方々とセッションされるものなのでしょう?その方々の分も含めて、どうぞ」
そうして受け取ったのがこの小箱というわけだ。
小箱の中からは、各員の髪の色にあわせ、ラズベリー、キャラメルバナナ、ピスタチオ、シーソルト、バニラにブルーベリーの、バラエティ豊かな色彩が顔を見せている。
それぞれの箱の中身を見せ合うため、ぐるりと円を描くように並ぶ色とりどりのマカロンを眺めるうち、誰ともなしに呟いた。
「…一つ一つも綺麗だけど」
「こうして並べると、色はちぐはぐなのに」
「まるで一つの花みたい」
「ねぇ、この先もさ。一ヶ月に一度くらいとか」
「こうして、皆で集まれたら、それはとっても、素敵だよね」
皆の想いは一つだった。
だが、現実にはそれぞれにこれまでの営みがあり、事務所のしがらみもあり、今後もアイドルを続けていくのかという葛藤もあった。
結局、明確な約束もなく、ExtEの面々はそれぞれ帰るべき場所へ散った。
既に中身は食べてしまったものの、未だ残る至福の香りを胸いっぱいに吸い込むと、星空の下でテルルは夢の残り香に火を灯す。
「…迷うまでも無かったわね」
これまで続けてきたソロの音楽活動も、盗賊の生業も、新たなグループとしての活動も。
どうせ一度きりの人生。
全部やらなきゃ、損ってものだ。
一夜限りの夢のはずだったアイドルグループ、『ExtE』の名がアストルティア中に轟くようになるのは、まだほんのちょっぴりだけ先の話である。
~完 しかし、冒険は続く~