ようやくそこで、何とか一口目を制したマージンも、ダンと同じ戦法に切り替え、猛然と後を追う。
その速度はダンを上回るが、一口目で付いた差は、一見、絶望的なものに見える。
が、しかし。
シャキシャキとレタスを咀嚼する耳触りの良い追跡音を背後から感じつつ、ダンはここへ来て思いもしなかった伏兵の存在に気付き、キッと店主を睨め付けた。
肉の量が普段より多いのだ。
マージンが注文したのは、ワンパウンドバーガー。
そのメニュー名の通り、通常肉の量は約453グラム。
勿論、日によって僅かなブレはあるが、店主とて歴戦の職人、これまでその違いはせいぜいが5グラム未満だった。
今日のは明らかに50グラムは追加されている。
肉の増量分があるせいで、このまま逃げ切れるかどうかは、実に微妙なところだ。
見た目が変わらぬよう巧みに偽装されていたとはいえ、手に取った時に気付けなかった己を呪うダン。
「正々堂々の一騎討ち。面白くなって来ましたね?」ダンの目線に気が付いていながら、店主は飄々とグラスを磨くのだった。
やがて二人の前に、コトリと水を満たしたグラスが置かれたのは、まったく同じタイミングである。
「…くっ、同着か。しまらねェ幕引きだな」
「ああ、全くだ」
「いつか絶対、白黒つけるぞ」
「ああ、望むところだぜ」
毬のように膨らんだお腹を抱えて、満身創痍で語り合う。
「もう一つ、お作りしましょうか?」
あくまで店主はニコニコと死に体の漢達に提案した。「「いや結構!!」」
ワンパウンドオーバーの肉塊を詰め込み、とうに二人は限界を超えていたのだった。
「…やっぱり睨んだとおり、おもしれェ奴だった。じゃあ、またな」
ふらふらと蹌踉めきながら去りゆくマージンの後ろ姿を見送り、距離的にとうに届かぬ別れの言葉を風に乗せる。
またいずれ、道が交わることもあるだろう。
彼らは、冒険者なのだから。
~完 しかし、冒険は続く~