本作品は二次創作『ドルブレイブアッセンブル』ならびに『逃亡者マージン』の内容に基く短編となります。合わせてマージンファミリーの馴れ初めを補完頂ければ幸いです。
◇◇◇
ティードはマージンと共に、マージンたっての願いによりマイタウン内に移設された、かつての傭兵団サンドストームのボスにしてマージンの父と判明したキャトルと、その妻ジュエの墓前で、静かに瞳を閉じて手を合わせた。
思い起こされるは、一番辛く、苦しい時期だったあの頃。
(馬ッ鹿じゃないの?)
サンドストームが壊滅したあと。
手掛かりを追う中で再会した生き残りに対する第一印象は、最低最悪だった。
勿論、同じ傭兵団に所属していたのだ、何度か見覚えはある。
フィズルと同じく工作部門の男、積極的に前線に出張るポジションではない。
にも関わらず、何故だかよく、ボスと一緒にいるのを見かけたから、印象に残っている。
ボスは敬愛するに値する立派なリーダーで、偉大な父のようでもあり、そして…密かな恋心を抱いた相手でもあった。
人間種族でありながらオーガに引けを取らない高身長、いかなる時も隙を見せない冷静沈着な佇まい、そして、青年と老人の狭間の妙齢。
まさに、ティードの男性の好みを煮詰めて型に入れたような存在だった。
だからこそ、苛々する。
そのボスにあれだけ目をかけられていたというのに、仇を取ろうともせず飄々と過ごしているマージンの姿に、ヤサを世話になっているとはいえ、虫唾が走る思いを抱きながら日々を過ごしていた。
「馬ッ鹿じゃないの?」
こうして包帯ぐるぐる巻きになっている姿を見るのは、何度目だろう。
「五月蝿いな!文句垂れるだけなら、自分の部屋戻れよ!!」
この男といても、一向に目的は果たせない。
本来であれば複数人で挑むべき魔物討伐依頼や、到達に困難を極める僻地への素材採取依頼、兎に角、金を作って離れようとする最中、毎度のようにマージンは首を突っ込んできては、私を庇って、大怪我を繰り返す。
もういっそ、私は死んでしまっても構わないというのに。
最初は下心でもあるのかと思ったが、治療費の請求をする訳でも、物品を求めてきたりなどもなく、恩にきせようという様子は微塵もない。
それがただただ、気味が悪い。
「馬ッ鹿じゃないの…」
今日もいつものように、傷を縫い、止血はした。
しかし、今回は場所が悪い。
吹き荒れる吹雪が収まらない限りは、このラギ雪原の洞窟からは一歩も出られない。
今は洞窟内にあった木屑を燃やし暖を取れているが、あと2時間と保たないだろう。
「…寝たら死ぬぞ。ちゃんと起きてなきゃ駄目だぞ」「五月蝿い。わかってるわよ」
「薪が無くなったら、ほら、俺の服とか、色々燃やせよ?どうせ俺は助からん。爆薬も使い切っちまったしな…」
「…」
例によって、マージンの怪我は、ティードを庇ってのものだった。
自分が死ぬ可能性を、マージンは冷静に計算し、提案している。
事実、マージンが助かるかどうかは微妙な線だ。
傷の深さよりも、失血による体温の低下が痛い。
更には、パチパチと枯れ木が爆ぜる音が、予想よりも早く小さくなってきた。
「…最後かもしれないから、答えて」
「…はん?」
「何で私を助けたの?」
「何でって…お前…」
「私にとって、サンドストームは全てだったの!それを失った今、復讐を果たす以外に、生きていく意味なんてない。あなたにとっちゃ、もうサンドストームの皆のことなんて、どうでもいいんでしょうけど!」
「………」
思えば、こんなに言葉を交わしたこと自体、初めてかもしれない。
「じゃ、復讐果たすまでは、生きてねぇとな。庇った甲斐があったってもんだ」
「………」
この期に及んでものらりくらりと。
刺すような視線を送れば、流石に観念したようで、とうとうマージンは口を割るのだった。
続く