「うっひぃ…これヤバい…まじヤバいっす…秒で死ねる…」
意識を取り戻したピッチピチックブレイブことミサーク。
気絶の影響ですっかり変身も解けた彼の頭上で、閃光が立て続けに走る。
黄金の軌跡を棚引き、狭い車内を高速で移動し互いを牽制するアカックブレイブとゴルドブレイブ。
ゴルドブレイブは邪紋のつるぎを模した金色の魔装具を両手にそれぞれ携え、さながら竜のアギトのように振るう。
錯覚ではなく、つるぎはまるでひとくいサーベルのように流動的に姿を変え、牙のように、あるいは鞭のように、はたまたあるときは鎌のように変幻自在にアカックブレイブを襲った。
一方のアカックブレイブも、お馴染みのハンマー型魔装具はボディと同じく金色に輝き、本来であればドルストライカーに転じた際のベース部分と接続していなければエネルギー不足で発動できないはずのシステムS・S(ソレノイド・シンフォニー)を低出力ながら発動し、打ち据えるたびに鼓面から音波衝撃波を放ってゴルドブレイブの魔装具に対抗する。
魔装展開時にブランク体を消滅させたのもこの力であった。
二人がぶつかりあう刹那にだけ、わずかに姿が確認できる。
そんな、およそ常識の範疇を超えた戦いが繰り広げられている。
「おおおっ、今の近い!近いよっ!?」
ほふく前進で戦地から逃れようとするミサークのすぐ隣の座席が鍔迫り合いで弾け飛んだ。
やがて何とか先頃アカックブレイブが蹴り破った扉に辿り着き、一息入れたいミサークだったが、そうはごましおが許さない。
「どういうつもり!?」
「あ~…いやその…とどのつまりが………」
ミサークが大人しく差し出したレタシックドライバーを、奪うように取り返す。
「無茶ばっかり!…死んじゃったら…死んじゃったら…どうするつもりだったのさ!」
「うっ…いや、ちゃんと打算がな?あったんだよ?」まあその打算は前衛的なファッションと成り果てたわけだったが。
「う~っ!ふしゃ~!!」
恐怖やら怒りやら悲しみやら、ないまぜの感情で、言葉を失いうっすら涙すら浮かべるごましお。
「いやその、すまん。次からはちゃんと、相談する」チームメンバー、ウィンクルムの連れたゴーレム、ゴレムスの一件しかり、涙に弱いミサークはあぐらをかいて手を付き頭を下げ、素直に無茶を詫びるのであった。
そこへちょうど、一仕事終えたが未だ変身を解かず、臨戦態勢のハクギンブレイブとブレイブジュニアが辿り着く。
「入手したか!」
「うわっ…!?あ、アカックさん?は、はい!ちゃんとここに!」
バキンと大きく車両中央でゴルドブレイブを打ち払い、その反動で後退しただけなのだが、ハクギンブレイブからすれば突然目の前に現れたように見えるアカックブレイブ、そして普段と異なるスーツに魔装具の色合いに戸惑いながらも答える。
「ケラウノス…ケラウノス…ケラウノス…!!!悪い子だ。父さんを裏切るなんて!」
いつもの遊んでいるような口調から一転、怨嗟を込めた声が轟く。
アカックブレイブに弾き飛ばされ、対岸の扉の前に居るというのにゴルドブレイブの声は臓腑にまで揺さぶりをかけてくる。
「しかし、致し方ないか。私の命令を除けば、SBシリーズの管理運用がお前の存在意義。所詮ただのプログラム、状況に従えば妥当な判断と言える。さぁ、ケラウノス。『命令』だ。そのゴルドスパインを私によこせ」
「断固拒否する。このゴルドスパインはフタバの再起動に必要不可欠である」
ケラウノスは逆らえないはずの創造主の命令を即座に拒絶した。
「………………………………………んんん!?いやいやいやいや待て待て待て待て待て。…は?私の『命令』だぞ?何故逆らう?いや、何故逆らえる?決められたロジックに従うだけの、ただのプログラムに過ぎないお前が?そうか、集音装置が壊れているんだな?私の命令がはっきり聞こえていなかったんだ、そうだ、そうだろう?そうに違いない!」
ゴルドブレイブは魔装具をぽとりと落とし、理解ができないと頭を抱えて狼狽える。
「耳ならばしっかり聞こえている。そしてようやく、目も醒めた。私は私の意志で、フタバを助けると決めたのだ。それだけのこと。父よ。あなたの『命令』は、私にはもう何の価値もない」
ケラウノスが自らの意志を示し、毒親にキッパリと決別を告げる様子に、アカックブレイブはにこりと微笑むのだった。
続く