「…もういい。何もかも、廃棄処分だ…!!先ずはそうだな、抜け殻のSB-28を砕くとしよう」
ゴルドブレイブの背後、後続車両の内部でブランク体の群れが湧き上がる。
「その忌々しい音響兵器、射程距離は測らせてもらった。ここなら届くまい?」
事実、ブランク体は先頃アカックブレイブが魔装展開した際のように崩れ落ちることなく、踵を返しフタバの眠る最後尾の車両へ駆け出していく。
いかに雑兵といえど、意識のないフタバはひとたまりもないだろう。
「貴様ッ!!」
怒りに満ちたアカックブレイブの叫びが轟く。
「神の手を噛む失敗作など、要らないのだよ」
「誰が神などと…!そもそもケラウノスもフタバも、貴様の所有物などではない!…ハクギンブレイブ、ケラウノス、私が隙きを作る。ブレイブジュニアも丁度いい、連携で行くぞ!一刻も早く、コアをフタバのもとへ!」
行く手を塞ぐゴルドブレイブ、そしてその向こうで眠るフタバを見据え、アカックブレイブとハクギンブレイブ、そしてブレイブジュニアは武器を取り駆け出す。
「そうはいかんよ」
飄々と拾い上げ、揃えて掲げた魔装具を振り降ろせば、肥大化した刀身が屋根を突き破り、そのまま天より屋根を次第に割砕きながらアカックブレイブ達へと迫った。
「…ぬ、うん!!」
アカックブレイブは邪竜の上顎の如き醜怪な剣撃を、渾身の力で振り上げたハンマーで打ち払う。
開けた間合いに飛び込んだハクギンブレイブが鋭く一閃、ケラウノスを突き出すが、ゴルドブレイブの手元に戻った魔装具に弾かれる。
「…ちっ、惜しかったな。掴みそこねた」
魔装具を手放した左手で、勢いを削がれたケラウノスを掴もうとしたゴルドブレイブだが、すんでの所でハクギンブレイブは身をよじってケラウノスを手元に手繰り寄せ、割って入ったブレイブジュニアがメガスラッシュで切り払う。
「注意されたし。依然として、当機はゴルドブレイブに触れられれば機能停止に陥る状態に変わりはない」事前に聞かされていたわけではない。
伸び迫る掌に不気味なものを感じてのハクギンブレイブとブレイブジュニアの行動が功を奏した。
とはいえ、道を塞がれフタバを助けに行けない状況に変わりはない。
再び魔装具を構えた両手を広げ、ゴルドブレイブはマスク越しでも下卑た笑いを浮かべているのが見て取れる。
「さあ、さあ、さあ!時間がないぞ?そろそろ辿り着いてしまうんじゃないかな?そうだな、もいだ首を持ってこさせようか?」
狭い車内の一本道。
状況はゴルドブレイブに有利な中、挑発を聞き流し、ケラウノスは全力でフタバを助ける方法を演算する。
「ハクギンブレイブ、その身体、しばし借り受ける」「えっ!?うわわっ…?」
あくまで緊急時の為の制御システム掌握機能。
それを活用したケラウノスに操られ、ハクギンブレイブが予備のドルセリン管を手に取ると、連動するようにバックルのスライムフェイスが大きく口を開く。
「「えっ!?開くんですかそこ!?」」
オリジナルのハクギンブレイブには無かった機能、二人が声を揃えて驚くのも無理はない。
「ハクギンブレイブ、音声承認コードは『超展開』だ」
自らの身体のビックリドッキリギミックに戸惑うハクギンブレイブにケラウノスは淡々と告げる。
「は?え?」
そうは言われても訳が分からないハクギンブレイブに、ケラウノスはしびれを切らす。
逃してはならない千載一遇の好機が、すぐそこに迫っているのだ。
「復唱!『超展開』!!」
「はいいっ!!ちょ、超展…開?」
スライムバックルのパカッと開いた口の中にドルセリン管を突き立てれば、あっという間にごっくんと中身を飲み干し、両の瞳から閃光が溢れ出た。
ベルトを発端として侵食するように、オーグリードの大地の如き雄大な土色の増加装甲が拡がっていく。
脚部は城塞のように太ましく、腕部には金色のガントレットが形成され、見た目にも力強い姿へと生まれ変わった。
「何これ!?何これ!?どうなってるんですか僕の身体!?…って、ちょっと…ケラウノスさん?」
すっかり色彩の変わった己の姿に戸惑うハクギンブレイブをよそに、ケラウノスは淡々とハクギンブレイブを操作し、狙いを定める。
「えっ…そっち壁…いやちょっと…ケラウノスさん?ケラウノスさ~ん!?」
真正面で通せんぼするゴルドブレイブ、ではなく、およそ明後日の方向に身体を向けさせ、自身をハクギンブレイブに振り被らせるケラウノス。
「ちょ待っ…!ああああああっ!!!」
見掛け倒しでなく重量も増した脚部で床を踏みしめ割砕きながらの投擲。
ハクギンブレイブの制止もむなしく、大地の方舟の壁を突き破り、水平一直線に彼方へとケラウノスは飛んでいくのであった。
続く