「はぁ、いつもいつも、どうしてこう、貴様らが関わると面倒ばかりだ」
客席の残骸の中から身を起こすと、ゴルドブレイブは再会と和解の喜びを分かち合う二人を睨みつける。
「貴様の見通しが甘いからだろう?」
「ははっ、見通し、ね。…そろそろか」
ぐるりと首を回し、着けてもいない腕時計を確認するそぶりをみせる。
「何を言って…んっ!?」
唐突に、ビシリとアカックブレイブのボディアーマーに走る亀裂。
ガラス板を落としたように、金色の増加装甲が砕け散り、剥がれたそばから霧散した。
「その力は確かに厄介だった。だが、時間切れのようだな」
アカックブレイブの強化フォームは仮初めの産物。
過剰なドルセリンと、未知の毒素がセ~クスィ~の感情の隆起により変質した結果引き起こされたものだ。
戦闘の最中、アカックブレイブの能力値から魔法が解けるまでの時間をゴルドブレイブは冷静に計算していた。
「これで我が神速の領域には踏み込めなくなったな」「これくらいのハンデはくれてやるさ」
「はっは!嘯くなぁ。いつまでその強気が続くものか。直にモニターできなくなるのが残念でならない」
ボコリとゴルドブレイブの肩が盛り上がる。
肩だけではない。
二の腕、太もも、胸筋と変化は伝播し、ゴルドブレイブの身体が巨大化していくに連れ、脛や腕部からは竜の如き棘が映え出で、折り重なっていく。
その頭部もまた、次第に突き出し、バイザーに亀裂が入って、歪なあぎとに変化した。
スマートな二足歩行に適さなくなったゴルドブレイブは前のめりに倒れ込み、爪の生え揃った掌が床を割り砕く。
腕や脚の長さノ比率はそのままであるため、四足獣というより、そのシルエットは蜘蛛や蟹に近い。
その段になってしなやかな尻尾もまろび出て、完全にゴルドブレイブは原型を失った。
「竜機械(リュウマシン)。これが我が至高の作品、真の姿だ」
最後にヘルメットのこめかみの辺りに亀裂が入り、獣のような瞳がギョロリと顔を出す。
「何と醜怪な…」
「気持ち悪っ!」
「つ、強そうですね」
「でもちょっと竜の頭はかっこいいな」
「…フタバ」
一様に感想を漏らす。
もっともケラウノスのはフタバに対する溜息であったが。
ゴルドブレイブと同じくゴルドスパインをコアに持つ以上、オリジナルと言えるグランドラゴーンの姿に近付いた相手に魅入ってしまうのは、致し方ないことではあるのかもしれない。
「本来であればゴルドスパイン4柱を用いて制御する想定でね。間もなくコイツは私の操縦が効かなくなり、暴走するだろう」
機関部の熱を逃れ、すぐ背後の車両には乗客達が避難してきている。
まだせめて理性あるケルビンであればともかく、その制御を離れ暴走する魔物となれば、乗客への被害も危ぶまれ、アカックブレイブはちらりと背後に視線を向ける。
「アカックブレイブ、君には朗報だよ。乗客のことは気にしなくても良い。どのみち、間もなくこの大地の箱舟は弾け飛ぶのだからな。竜機械に殺されるも、大差ないさ」
「何を言う!?コアを抜いたのだ、機関部もやがて停止するはずだ!」
まだケルビンとリンクされている竜機械は歪な姿勢ながら器用なことにキョトンとして見せる。
「ふむ…?…はっはっはっ、そうか、なかなかに策士だな、ケラウノス。言わなかったのか」
一斉に、視線がケラウノスに集中した。
「ゴルドスパインはこの大地の箱舟において、エネルギーを生み出すためではなく、誘導、制御に用いられている。臨界手前であれば引き抜くことで機関部は停止するが、許容を超えていた場合、ゴルドスパインを引き抜こうともエネルギーの増大は止まらず、機関部は爆砕する。ゴルドスパインを引き抜いたことで、猶予はさらに短くなった」
今フタバの胸に納まるゴルドスパインを機関部から引き抜いた際の光景、手遅れであったことを示す機関部の反応は、ケラウノスのメモリーに焼き付いている。
「なんてこと…」
呆然とするアカックブレイブ達に向け、実に楽しそうにケルビンは別れを告げる。
「さあ、さあ、さあ!クライマックスだ!!!赤と銀、琥珀に黒。あと黄緑もいたか?いつもと彩りが異なるが、一応頭数は揃っているじゃないか。爆発を待つばかりの大地の箱舟と、竜機械を相手に、大団円に持ち込めるものなら、やってみせろよ!我が仇敵、超駆動戦隊ドルブレイブ!!!」
制御の限界が訪れたらしく、ブツッというノイズとともにケルビンの声はそこで途切れた。
同時にゆっくりと首をもたげる竜機械。
力の込められた前腕が更に床を割り砕く。
「…いやちょっと待ってもしかして俺も頭数入っとんのか~~~いッ!!?」
ピッチピチックブレイブことミサークの絶叫は、暴走を始める機械仕掛けの邪竜の咆哮に掻き消されるのであった。
続く