レンドアへ続く海上の線路を走る大地の箱舟、その屋根上で風圧をものともせず腕組みをして仁王立つアカックブレイブのもとへ、高速で飛来する物体がある。ドルセリンを満タンに充填したアカックブレイブの専用機、ドルストライカーだ。
構成する一部であるハンマーは今、アカックブレイブの背にあるため、傍目にはシンプルなドルボードに近い。
アカックブレイブに激突するかと思われた瞬間、落着の勢いを膂力で殺し、流れるようにハンマーを連結する。
「受領した!システムO・O(オプティカル・オーケストラ)!!斉射!!!」
完全顕現したドルストライカーを背にまとえば、バシャリと音を立ててハンマーの柱面が多重にスライドし、現れた無数の砲口から流星群の如く無尽に指向性エネルギーが放たれる。
非常に細身なレーザーはそれぞれに複雑な起動を描き、最後は精密に大地の箱舟の車輪を撃ち抜き、支えを失った大地の箱舟は慣性に任せて火花を散らしながら線路上を滑走し始めた。
乗務員達も、悪人ではない。
ミサークの説得に応じて開示された情報の一つが、今アカックブレイブが破壊した車輪である。
ゴルドスパインを僅かに削る事に成功した際の粒子を素材に織り交ぜた金色の車輪は、それが一つの吸収源として、大地より地脈エネルギーを吸い上げていたのだ。
さらには海と橋脚によって、大地から遥か隔絶されている。
これで、地脈エネルギーの流入経路は断たれた。
そして、ともすれば衝撃で跳ねて脱線しかねない車列を、アカックブレイブは屋根上を駆け巡りハンマーをふるって黙らせる。
「ちょおおおいやっ、さ~~~~~~ッ!!!」
さらに大地の箱舟の速度を落とすべく、雄叫び一喝、窓から飛び出すレタス色のシルエット。
密かにバージョンアップを続けていたレタシックスーツは、遂には完全な飛行能力を有するに至っていた。
ドルセリンを補助燃料に、天へと舞い上がったのち、旋回して大地の箱舟の真正面から超大質量に対して相撲を仕掛ける。
「…頑張れよ。ごま」
激しい騒音と振動に満ちた車内からは、勿論レタシックブレイブの奮闘は見えない。
しかし、親友が窓から飛び出して後、確かに大地の箱舟の速度が低下しているのを肌で感じ、ミサークは祈るような気持ちで呟く。
失敗は許されないが、万が一の場合、レンドアを巻き込むことを回避するため、出来る限りその手前で大地の箱舟を停車させる必要があった。
作戦説明の際、大地の箱舟のブレーキ役として自ら名乗り出たごましお。
「わ~っ馬鹿、ごまは大人しくしてろって!」
プクリポの少年の手に握られたレタシックドライバーと、慌てて止めようとするミサークの保護者然とした様子、そしてミサークが先程床を舐めていた際の丈の合わないスーツ姿。
本来のスーツの主が誰なのか、アカックブレイブの中で点と線が繋がる。
「かつてオルフェアで、ハクギンブレイブの誘拐未遂騒動を解決した新緑のヒーローがいたと聞いたが…そうか、君が」
憧れの人からヒーローと称され、湧き立つ気持ちをぐっと抑える。
まだ、それは早い。
「いえ、オレはただのごましお。一日車掌の、ごましおです!この列車のために出来ることがあるなら、オレにも協力させてください!」
ヒーローと堂々と名乗れるような資質も資格も実力も、今の自分にはまだ無い。
それでも今、この手には親友ミサークが作ってくれたベルトがある。
『いまのボクには力がある。だったら、やらない理由は…ない!』
そしてもう一人の親友、ハクトの口癖が、ごましおの背中を押したのだ。
仮にミサークが再びレタシックスーツをまとったとしても、体重差の問題で飛翔は適わなかったことだろう。
その効果は微々たるものだったかもしれない。
しかし確かに、レタシックブレイブこと一日車掌ごましおの活躍によって、大地の箱舟はレンドアとカミハルムイの中間地、最も理想的な場所に停車することに成功したのであった。
続く