その間も、2体の金色のシルエットはゆっくりと海中を沈んでいく。
海面に激突した時の衝撃で、もとより半壊した掌ではしっかりホールド出来ていなかった竜機械とは離れてしまったが、相手も片腕と片脚を欠損しており、海上へ逃げ遂せることは敵わないだろう。
重量差の問題かフタバよりも速い速度で沈んでいくが、数分の後に訪れるフタバの爆発の影響範囲から竜機械が逃れることもないと、ケラウノスは自分でも残酷な演算を済ませた。
「すまないな、ケラウノス。付き合わせてしまって」そのボディが赤熱化するほどの高温に晒された海水が揮発し、ボコボコと泡を引きながらゆっくりとフタバは沈んでいく。
ケラウノスとの融合を解けば、即座にその場で爆発する可能性が高かった以上、諸共に飛び込むほかなかったのだ。
「………そもそも私の耐久度計算に間違いがあった。こちらこそ、済まなく思う」
珍しくケラウノスの口調はしおらしくて、こんな状況であってもフタバはくすりと笑ってしまう。
「いいさ。今日はもう、既に一度死んでいるようなものだ。一度も二度も変わらないさ」
フタバはまだ幼いながらも達観し、瞳を閉じる。
「ちゃんと、姐御に謝ることもできたし…悪くない人生…ん?人生?人生でいいのか?」
ケラウノスに確認を求めたフタバだったが、予想外のところから回答が来る。
「…さあ?どうだろうね?」
ふと気配を感じて瞳を開いた先、フタバを抱き起こすように海中で腕を添えるハクギンブレイブ。
またしてもその姿は変貌を遂げ、深緑のメットに、装甲を排したシンプルなボディスーツ、腕に至っては金色の手袋を除けば二の腕など生身のハクギン状態のままで、レッグガードこそもとのハクギンブレイブの形容を残しているが、メットに合わせるように薄い緑に染まっていた。
首に巻き付けた長い長いマフラーが細身の翼のように左右の肩からたなびき、鮮やかな黄緑色も相まって、海藻のように海中でゆらゆらと揺れている。
「兄上!?その姿はまた別の…いやそんなことより!何をしてるんだ!早く離れて…」
「はぁ、全く君って奴は。少しは頼れる兄貴を信じてもらいたいものだなぁ」
二本の長いマフラーが抱き締めるようにフタバに巻き付くと同時に、金色の光を帯びる。
「これは…!?エネルギーがフタバから移動していく…。しかし、そのままでは…」
フタバと依然融合状態にあるケラウノスは、吸収した地脈エネルギーがマフラーを通してハクギンブレイブに流れていくのを検知するが、それでは許容を超えて爆発するのがフタバからハクギンブレイブに変わるだけの話だ。
「ぐっ…!これは…なかなか…」
体内を竜が暴れまわるような苦痛に思わず呻きが漏れた。
「兄上!何をしたのか知らないが、早く俺にエネルギーを戻してくれ!俺の失敗のせいで兄上が死ぬなんて、絶対に嫌だ!!」
「勿論、死なないよ僕は。三人揃って帰らないと、それこそアカックさんに殺される。あの人、怒ったら本当に怖いんだから」
エネルギーの転移を終え、マフラーがフタバから離れる。
「ふぅ~…上手くいきますように」
祈るような気持ちでハクギンブレイブはその背に背負ったスライムショットを手に取る。
手袋と同じく金色のそれは、外れ落ちたベルトが変貌を遂げたモノだ。
弦をゆっくりと引き絞れば、過剰なエネルギーが弓へと流入し、金色の矢を成していく。
「ついでだ。まとめて消し飛べっ!」
片腕片脚さらには尻尾も使い必死に海上へ這い上がろうとしている竜機械に向け、狙いを定める。
遂には完全に体外へ移動しきった地脈エネルギーで構築された巨大な矢を、ハクギンブレイブは竜機械に向けて撃ち放つ。
竜機械の尻尾も含めた全長を遥かに上回る光の束は、文字通り竜機械を消失させ、海底に深々とクレーターを穿った。
「地脈エネルギーの消失ならびに、竜機械の信号途絶を確認」
制限時間の訪れとともに分離したケラウノスが事の終わりを告げる。
「…さぁて、これで片はついたけど。箱舟に戻ったら覚悟しておきなよフタバ」
役目を終えたからか、霞のように深緑の弓兵の衣装は掻き消え、弓と化していたベルトも腰に巻き付いて、いつものハクギンブレイブの姿に戻っている。
両腕の怪我を気遣いフタバを抱えたまま海上を目指すハクギンブレイブからせっかく忠告を受けたのだが、兄に対する自身の感情がいわゆる恋と呼ばれるものであると理解しつつあるなか、はからずもその兄にお姫様抱っこされている状態でまともに聴覚センサーが働いていようはずもない。
結局なんの心構えもないまま、陸で待ち受けたラスボスもとい涙目のアカックブレイブにあえなく正座させられ、救助船が駆けつけるまで、さらにはレンドア港に辿り着いてなお、一時間以上にわたりミッチリお説教を受けるハメになるフタバであった。
続く