事件の後、地脈エネルギーによるダメージの確認も兼ね、おきょうの手によりハクギンブレイブの解析が行われたが、終ぞ発現した『MODE:Leonard』の正確な概要は掴めなかった。
超展開のシステムにも該当せず、当のハクギンブレイブ自身も何故その形態を取ることができたのか、そのスイッチが分からない以上は深く調べようもない。
ケラウノスの考察によれば、ハクギンブレイブのもととなったSB-03の建造にあたっては、魂を納めるという初めてのコンセプトを成立させる上で、ボディと魂の拒絶反応の可能性を排するため対象者のルーツを徹底的に辿ったという。
ボディに残されたハクギンの祖先の情報や、採用されずともデータとして残された戦闘システムの試作案などがハクギンブレイブの感情の高まりにより顕現したのではという仮説が、随分と荒唐無稽ではあるが真実なのかもしれない。
「…何にせよ手掛かりが無さすぎるわね」
おきょうが端末で調べる限り、冒険者として登録がある中だけでも131人のレオナルドが存在する。
遥か過去の人物という可能性もあるし、そもそもそれが人名を指しているのかも曖昧だ。
であれば、片付けられる目の前の問題から手を付けるべきである。
『はい、ハクギンブレイブはもう大丈夫。地脈エネルギーによる回路の断絶箇所も既に自己修復機能が働いているわ。しばらく動き難さはあるでしょうけど』
ハクギンブレイブが見上げる大きなガラス窓の向こう、にっこり笑うおきょうの声がスピーカーから流れる。
「ありがとうございます」
内部構造確認の為の透視カメラがついたアームが下がるのを待って、ハクギンブレイブは上体を起こす。
『さて、フタバちゃんの両腕の治療に取り掛かるわよ~。ちょっとチクチクするかも。我慢できたら、美味しいみたらし団子用意してありますからね~』
「…頑張る」
やや緊張した面持ちのフタバの返事に微笑みを返すとおきょうは一旦マイクを切り、キーボードを叩いてフタバの修理に用いようとしている部品一覧を、壁に立て掛けられたケラウノスに送信する。
「問題ないかしら?」
「問題無い。よくもここまでオリジナルに近い部品を集められたものだ」
融合時であればともかく、フタバ単体での自己修復機能に任せていては、この傷の深さではかなりの時間を要する。
おきょうから送られた部品データは発言の通り、同等品と呼んで差し支えない。
自己修復機能とも拒絶反応なく馴染むことだろう。
「ハクギンブレイブ用に自作したものなのよ。幸いあの子は今日まで大きな怪我も無くて、使う機会がなかったのだけれど。実際に使う前に専門家のチェックが受けられて良かったわ」
ケラウノスの返答を受け、ハクギンブレイブがそばで見守る中、ベッドサイドから展開されたアームがフタバの修理を進めていく。
心拍や精神パルスを確認するまでもなく、おきょうは本心からハクギンブレイブやフタバを慮っていることがケラウノスにも伝わる。
「………一つ伺いたい」
「どうぞ」
「ハクギンブレイブに施したリミッターについてだ」その話題に触れた途端、腕組みをして背を壁に預けていたセ~クスィ~もじろりとおきょうに鋭い視線を向けるのだった。
続く