あれからフタバは、故あってこの度拠点を構える事となった劇団の面々との共同生活に戻った。
しかし山で生まれたからか、度々こうしてケラウノスと練習を抜け出しては裏山を駆け巡っている。
今日もまた、そんな一幕。
唐突にフタバは切り出した。
「ケラウノス。世界征服に代わる、俺の新たな目標が定まったぞ」
「それは大変喜ばしいことである。さらなるフタバの支援のため、開示を求める」
「うむ。兄上とつがいになることだ」
「………………………………………………………くぁwせdrftgyふじこlp…熱暴走の危険から演算を停止。発言の内容を理解不能。何かしらの暗号通信であることを切望する」
あまりにも長い沈黙の後、フタバの掌中で過負荷により高熱を帯びたケラウノスが祈るように問い返す。
「…ん?言葉通りの意味だが?5種族にならい夫婦と言うべきか?」
残念ながら、ケラウノスの願いはかなわない。
戦闘を中断させてでも、あのときすぐに確認をとるべきだったと激しい後悔に苛まれるケラウノスをよそに、フタバは言葉を続ける。
「兄上を思慕する者たちの集いし『ふぁんくらぶ』なるライバル組織も存在するらしいが、俺は兄上とアストルティアでおそらく唯一の同族という絶大なアドバンテージがある。けして勝ち目の無い戦いではないはずだ」
そこまで考察しておきながら、何故そもそもの倫理的問題点をすっぱ抜いているのかが、ケラウノスにはまったく理解できない。
「………新たな概念を獲得。これが目眩か」
「また一つ成長したな!良い事だ!!」
「作戦目標の再考をもとめ…いや、取り消す。アーカイブから、今の私の提案は馬に蹴られて死んでしまう事案だと確認された。それは困る」
ひとの恋路を邪魔するやつは何とやら。
面倒な標語を見つけてしまったうえ、そも、相手がハクギンブレイブであれば、良識的な対応を取ってくれるはずだと、丸投げすることにした。
「では協力してくれるんだな!?」
「フタバが目的意識を持ったことは…望ましい展開の…筈だ…」
ケラウノスは人であれば理性にあたる演算回路がショートしそうな難題に対して、とりあえずは何とか解答を絞り出す。
「そうと決まれば、まだ約束まで時間もあるし、俺はさっそく女を磨くぞ!」
蒼天に大きく両拳を突き上げるフタバ。
決意を高らかに、しかしフタバにとっての参考になる身近な女性というと、さしあたってセ~クスィ~しかいない。
「姐御みたいな、立派な女になるんだ!」
「…さっそく目眩という概念を活用。また、希望について理解を深めた」
セ~クスィ~にならい、女を磨くべく機械の身体にはさして意味のない筋肉トレーニングに打ち込み始めるフタバ。
その様子をモニターし、未だ困惑の最中にあれど、この先の未来、フタバをどのように支えていくか、存在しない筈の胸の高鳴りを確認したケラウノスであった。
「…ところで。アカックブレイブに送った品についてだが」
「ああ!あれか!!姐御はもともと5人組で活動していると聞いてな。いいチョイスだろう!?」
フタバがなけなしの日替わりモンスター討伐報酬で購入し、ドルブレイブ基地に差し入れしたのは、カミハルムイの菓子店で一際高額な品、『五色生菓子』の詰合せ。
「…戦争の意図は無かったのだな?」
「戦争?何を馬鹿な…。喜んでくれてるだろうか?」配達に遅延がなければ、今日の昼には届いているはずだ。
一抹の不安を抱くケラウノスをよそに、喜ぶセ~クスィ~の様子を想像し微笑むフタバであった。
続く