日、月、海、山、里を表す5種類のお菓子、ささら餅、饅頭、うずら、いがら餅、羊羹がそれぞれ綺麗に整列し詰められた大きな箱を、おきょうが開く。
「アカックブレイブ宛にこれが?…こいつは、宣戦布告ってやつですかね?」
すかさず、うずらを一つ手に取るダイダイックブレイブことネコギシ。
波を形容した菱形の餅を齧れば、よくねられた舌触りの良いこし餡が舌先に踊る。
「フタバにそんなつもりがあるわけ無いだろうが」
「あっ痛たたっ!割れちゃう!大事なとこが割れちゃう!!」
アカックブレイブことセ~クスィ~が選んだのは、紅色に着色した米粉を散らして太陽を表現したささら餅。
内包された、うずらと同じなめらかなこし餡を味わいながら、空いている手でニヤニヤ笑うネコギシの前頭部を鷲掴み、そのまま軽々と持ち上げる。
「そうねぇ、私達の風習、それもエルトナ大陸一部の話だし。あの子に他意は無いでしょう」
「口は災いの元…ネコギシ先輩、ご愁傷さまです」
おきょうとアオックは、満月を表す白い丸形の麦饅頭をそれぞれ手に取った。
小麦粉を練り、蒸して作られたふかふかの生地の食感が唇にも楽しい。
「…婚姻の祝の菓子。滅多には食べられん。有り難く頂こう」
山を象るいがら餅を手に取るは、常在戦場の心構えから魔装を展開したままのブレイブ2号。
メットのみを外して、黄色く着色した米粒をまぶした独特の食感の餅に舌鼓をうつ。
「『迷惑かけたお詫び』、ね。殊勝な心がけじゃない?いっそスカウトしてあげたら…って、私と色被りしちゃうんだっけ?」
箱上面の添え書きを読み上げながら、クロックブレイブこと、セ~クスィ~と同じくオーガ種のミカはパーソナルカラーの黒にならい羊羹を手に取る。
上質な餡を使いしっとりと蒸し上げられた羊羹はまるで液体のようにするすると流れ、ミカの喉を楽しませる。
「…さて、おきょう、そろそろ出掛けるとするか」
「あらもうそんな時間?…まだ随分と早いんじゃないかしら?」
くいっと手首をあげ、腕時計で時間を確認するおきょう。
そうこうしている間も、ネコギシに対するお仕置きはもはや無意識に継続されている。
「あひぃ…ホントに割れるぅ…!」
「おっと」
冗談抜きでミシリと脳内に骨が軋む音が響いたあたりで、ようやくネコギシは解放された。
セ~クスィ~は自由になった手で懐から2通の封筒を取り出した。
純白のシンプルな封筒は真紅の蝋で閉じられ、大地の箱舟のエンブレムをあしらった封蝋印が押されている。
「大事なこけら落しだからな。招待していただいた以上、遅刻するわけにはいかん」
ハクギンブレイブと出会うきっかけとなったマージンのマイタウンへの小旅行以降、任務だけでなく余暇にも全力を投じるようになった親友の姿をおきょうは嬉しく思う。
「そうね。じゃあ皆、私とセ~クスィ~が不在の間は頼んだわよ」
「「「了解!」」」
未だ床に転がりながら悶絶するネコギシを除き、小気味良い返事に後押しされて、正装のセ~クスィ~とおきょうは基地を旅立つのであった。
続く