「お、オレ様とやるってのか?お前、オレ様ほどじゃないが強そうだな?よぉし、負けたらお前もオレ様の子分な!?決まりだ!!」
ずっと服装に思い悩んでいたが、立ち直りも早いのがカンダタの取り柄である。
「よぉし、やっちまえ!子分ども!!」
ビッシィっと斧を掲げて号令を飛ばす。
しかし、シーンと静まり返る室内。
くるっと一度後ろを振り返り、再度、斧をブンと振ってみるカンダタであるが、引き続き沈黙が訪れる。
「…誰もいない…な?」
アカックブレイブも首を傾け、カンダタの背後を見やるが、当然ながらそこには誰もいないし、駆けつける様子もあるはずがない。
「仕方ねぇ!オレ様が直接相手だ!」
「ああ、かかってくるがいい!」
アカックブレイブは筋骨隆々な戦士である。
しかしやはりそこは女性然としたしなやかな身体に対し、丸太を組み合わせたようなカンダタのたくましい身体では一見、カンダタに分があるように見える。
しかし結果は全く異なっていた。
上段から振り下ろされる強烈な斧の一撃を、魔装具のハンマーで容易く弾く。
繰り出したパンチはその細い掌で然と受け止められ、逆に合気でもって捻り上げ、投げ飛ばされる始末。
どうあがいても勝ち目がないとわかった辺りで、カンダタは呆気なくプライドを捨てた。
「分かった、分かった!アンタは強い!戦いを挑んだのはちょっとした出来心だったんだよ。だから許してくれよ、な?な?」
それは見事な五体投地。
非の打ち所がない土下座を前に、アカックブレイブは一歩踏み出した。
「うおおっ…!?血も涙もないのかよおっ!!」
思わず飛び退いたカンダタの眼前、つい先程まで這いつくばっていたあたりにアカックブレイブのハンマーが突き刺さり、クレーターが出来上がっている。
「失礼な奴だ。血も涙も、勇気だってあるぞ。さあ、漢らしく決着をつけよう。私が勝ったら、アオックとダイダイックがムキムキになるまで、専属トレーナーを務めてもらうぞ!」
「定職に着くなんざまっぴらごめんだぁ~ッ!!…あっ」
慌てて駆け出そうとしたカンダタは荒れた石畳につまづき、まるでスローモーションのように短い悲鳴にエコーがかかる中、股ぐらから飛び出した例の装置が宙を舞い、そして砕けた。
その瞬間、ドルブレイブ秘密基地の私室、乱れたシーツの上でセ~クスィ~は目を覚ます。
何だか、ろくでもない夢を見た気がする。
起き上がり、水を飲もうと立ち上がった途端、強烈な目眩に襲われる。
「………う…何だ、この疲労感は」
ごっそりと生気を奪われたような、気怠いなどという言葉では誤魔化しようのない身体の異変で、ベッドから立ち上がってすぐ床に倒れ伏すセ~クスィ~。
サイドテーブルの上では、白紙の手紙と、夢の中同様に壊れた装置が転がっているのだった。
続く