「いやはや、ぬか喜びさせてしまいすみません」
「いや、重要な手掛かりには違いない。ありがとうございます」
「乗りかかった船には全面協力、親切の押し売りと思われようとも首を突っ込むのが冒険者の性分というものですから。因みに、どういった由縁の品なのでしょう?」
もはや包み隠す必要もない。
先のダークドレアムの一件ではレンダーシアの民を中心に残念ながら犠牲者も数多く出ている。
なればこそ、こちらの頭数も多いに越したことはないだろう。
「少し、長い話になりますが…」
前置きし、アレスとヒッサァ、そしてアサナギは一連の経緯をブラオバウムに語った。
途中、アサナギによるシャナクの発動の瞬間の話題に関してはいささか鼻息を荒くしたブラオバウムだが、その他は穏やかに聴き入り、説明が終わった所で脳を動かすべく串に刺さった3つの団子を一息に頬張る。
「………そしてグレン領でついに捉えた敵の尻尾が、この装置と、この何かのリストの切れ端というわけだ」
アレスは懐からボロボロの羊皮紙を取り出した。
所々焼け焦げている上、ごく一部しか残っていないそこには、幾名かの名前が書き込まれている。
不要な装置を破壊する傍ら、炎上する幌馬車の中から何とか回収したものだ。
「………悪夢に棲まう夢幻の王、ダークドレアムですか。ふむ…悪夢といえば…そしてこのリスト…」
リストに記載されたある名前にブラオバウムは見覚えがあった。
「私只今、カミハルムイのさる名家で夜露を凌がせていただいているのですが、そちらの御当主、いなり様が今朝方、目覚めるなり大怪我をなされているという面妖な事件がございまして」
「…!!!その方はご無事なのですか!?」
いなり。
その名はちょうど羊皮紙に書かれている。
「ええまあ、両腕の靭帯が断裂、浅い刀傷も多数負われていますが、今は手厚い看病を受けて快方に向かわれています」
当然、回復呪文でお助けしようと名乗り出たブラオバウムだったのだが、どうやってか、いなりの負傷を嗅ぎ付けたかげろうが脱兎の如く屋敷に駆け付け、甲斐甲斐しく濃厚な昆布出汁を効かせた梅がゆを作って餌付けしていたうえ、いなり本人からも呪文の力で急速に直しては感覚に影響が出ると断られてしまい、今に至る。
「怪我もさることながら、体力の消耗が著しく。先のダークドレアムによる刻印の話に、少々近いものを感じます」
「そうだな。関係がある可能性は極めて高い」
「そして、リストからかろうじて読み取れる他の二人のお名前。私個人的に大変見覚えがありまして。ちょっと今から向かってみようかと」
ブラオバウムが指差した先に記されしは、海底離宮攻略の折の戦友、マージンとフツキの名前であった。
「助かります。バウムさんと再びチームアップできるとは、こんなに心強いことはない。しかし、充分にご注意を。オレ達はエテーネ王国というキーワードから、引き続き装置の謎を追ってみます」
「ええ。では、各々参りましょう」
新たな手掛かりをもとに、急造パーティが慌ただしく動き始める、そんな中。
新たに悪夢の狭間に足を踏み入れた恰幅の豊かな商人が一人。
「おやおや?困りましたね。ここは一体何処でしょうか?ようやくまとまった稼ぎも出来たというのに」
先端に珠算道具を備えた不思議な錫杖を携え、男は暗闇で首を傾げる。
何故だか急に、『正義のそろばん』のレプリカが飛ぶように売れて、妻のネネにも自慢ができるだけのゴールドを貯えることができた。
久方ぶりに、もはや懐かしくすらある家族の元へ帰ろうというのに、迷い込んだこの部屋は一向に出口が見つからない。
豊かな髭を撫でつつ、トルネコはひとり途方に暮れるのだった。
続く