「そっか…呪い!よしこれなら多分!………あああっ、それにしてもこんなことならシャナクとかおはらいとか真面目に勉強しとくんだったっ!!とにかく二人共、ステイ、ステ~イ!」
マユミは闘牛士とあばれうしどりの間に飛び込むような気持ちで二人に制動をかける。
「何だ、いくらマユミでも、邪魔立てすると…」
マユミは、正気であればけして有り得ない不穏当な表情を浮かべるクマヤンに、一歩も引かずに訴えた。
「違う、違うの。存分に戦ってちょうだい。でもね、考えてもみて。あなた達は商人よ?だったら、それに相応しい土俵があるんじゃないかしら?」
「…ふむ、一理ありますね。何分、私もこの体型ですから、肉弾戦は不得意。我らが王も、無様な殴り合いが見たいとも思われないでしょう」
乗ってきた!
マユミは気を逃さず、トルネコから飛び出した『王』、というキーワードも余さず取り入れ慎重に先を紡ぐ。
「ね!?幸い、クマヤンは仕入れから帰ったばかり。リュックにた~くさん、世にも珍しいアイテムの数々を抱えているわ。折角だから、王様にお披露目したいの!」
「…なるほど、それは実に良い考えだ!」
クマヤンも合点がいったと笑みを浮かべる。
「でしょ!?だから一つここは、どちらがより素晴らしいアイテムを王様にご提案できるか、プレゼン対決三本勝負といきましょう!!」
「「…心得た!!」」
(…よっしゃキタ~~~っ!!!)
…計画通り。
ガッツポーズに小踊りも加えたい気持ちを心の中だけに抑えて、マユミはあくまでも冷静に振る舞う。
「双方、まず一品目は頭部装備。帽子の類でもアクセサリでも、頭に着けるものなら何でもいいわ。次は鎧、そして、最後は武器、その3つね。いい?くれぐれも、『王様に相応しい』アイテムを披露してね?」
マユミはさっくりルールを定め、肝心のポイントにしっかりと釘を刺す。
「そろそろいいかしら?じゃ、まずは、クマヤンから!」
選定の時間を設けた後、マユミが高らかに宣言する。「ふっふっふ、まずはこれだっ!」
「………あ~…それ出しちゃうかぁ」
マユミの目論見的にはけして悪いチョイスでは無いのだが、よりにもよってそれかと天を仰ぐマユミをよそに、クマヤンは額にドクロマークの刻まれた、石造りの帽子ような物を取り出し、深々と被る。
「おおお、それは!!『いしのかつら』ですね!?破格の耐久力と引き換えに、性格が頑固者になるというあの…!さすがクマヤン殿!」
「あ~、うん…そういうしょぼい呪いだったわよね…。続いてトルネコさんお願いします」
トルネコがテンション爆上がりで解説の役まで果たしてしまう一方、心底しょうもない、と思いつつマユミは先を促す。
とはいえ、クマヤンはマユミの提案した『王様に相応しい』というフレーズを正しく理解してくれたらしい。
王が誰だかは知らないが、こんな真似をしでかす輩である。
おぞましい相手には、呪いの装備がお似合いだ。
そして、呪いの装備をクマヤンとトルネコに身に着けさせることこそ、マユミの狙いであった。
続く