「いやぁ、やはりいらしてましたか、アレス。そんな気はしてたんですよ」
なかなかに距離があったはずだが、あっという間にブラオバウムはマージンとフツキを連れて駆け寄った。「こ ろ す 気 か ?もう少しで消炭だったぞ!」
アレスとヒッサァの胸の内では、未だに鼓動が激しく打つ。
再会を喜ぶ前に、文句の一つもぶつけたくはなろうものだ。
「それなんですがねぇ。てっきり、戦い合わせるだけが手の内の全てかと思っていたんですが。見て下さい」
ブラオバウムに促され、アレスは彼の背後を覗き込む。
「これは…」
「ギラグレイドの特性で、間違い無く私の合成魔法は一直線に飛んだはずなんですが」
先程は間違いなく、綺麗に並んでいた破壊跡の円が、歪に折り重なり、果てが見えなくなっている。
「道すがら、派手に進んだのもありますが、侵入は露見していますね。放置しているようでいて、しっかり我々をもてなすつもりもあるようです」
敵もさるもの、ブラオバウムの合成魔法を好機と捉え、同士討ちを狙うべく城の構造を捻じ曲げたのだろう。
「海底離宮の冒険でも、マホカンタに悩まされましたから、速度を緩めておいて正解でした。とはいえ、私の魔法をよく知るアレスでなければ避けられなかったかもしれませんが」
ブラオバウム本人も認めている通り、あれで遅かったのかというツッコミは、信頼に免じて無しとした。
「5人、か…。セオリーではないが、パーティ単位として前例が無いわけじゃない」
アレスは揃った顔ぶれを眺める。
「あらためて、このパーティの指揮は、オレに預けてもらえないか?」
「構いませんとも。もとよりアレスとヒッサァさんは、今回の相手に因縁が深い。加えてアレスは大規模戦闘のエキスパートでもありますしね」
すかさず、面倒な説明が省けるような注釈がサラリと入るあたりが、ブラオバウムとアレスの間柄を物語る。
「おお、そうなのか!そいつは心強いぜ!ここが何処だかは知らないが、カジノレイド祭りが終わる前には何とか帰りたくてな!」
「はぁ…マージン、場を和ませる為にしたってもう少しマシな…いやお前、ガチか?そんなにバニーガールが見たいのか?」
「んなワケねぇだろ!」
隙あらば痴話喧嘩を始める二人をよそに、ブラオバウムはある疑問を投げかける。
「ところで、お二人はどうやってこちらに?」
「ああ、ロマンさんがブリ…えっと………」
「ブリ…?」
名前が思い出せずアレスは助けを求めてヒッサァを見るが、ヒッサァもまた、どんな名前だったかと金色のウ○○を思い起こし頭を悩ませている。
「まあとにかく、ロマンさんの造った装置で…。………!」
ブ以下略の正式名称を思い出そうとする無駄な時間を放棄したところで、アレスはブラオバウムも危惧するところに思い至り、慌てて瞳を閉じる。
「………駄目だ、戻れない」
強く目覚めたいと願えば、ブ以下略が赤く明滅する。それを目印にロマンが装置を停め、アレスとヒッサァは悪夢の世界を抜ける手筈だ。
しかし、工房の一室、アレスとヒッサァの眠るベッドに挟まれる形で置かれた装置は、自動供給される仕組みに切り換えられた潤沢なドルセリンを燃料に虚しく一人光を放ち、ロマンの姿はそこにはない。
ロマンは一人、主には竜巻などの自然災害対策として設けたシェルター機能を作動させ、かつてのえぐみマークⅡの装甲材をアレンジした防壁に包まれすっかり様変わりした工房の外に立っていた。
「飛び入りだろうと無理難題だろうとウチは千客万来だけどな。ちょっとばかし、間が悪いわ、お客さんがた」
ゴトゴトと音を響かせ、巨大な無数のハンマーを工房に立て掛けていく。
「俺っちがお節介にもダチのクエストに首突っ込んで現場空けてる間、死ぬ気で穴埋めてくれた野郎共が中で寝てんのよ。おまけにダチがちょっくら世界救ってる最中なんだわ。大人しく帰らねえってんなら、テメェらの墓の礎石になる覚悟は出来てんだろうな?オイ」
工房を取り囲むように果も見えぬほど居並ぶ紅尽くめの魔物達に、欠片も怖じけず啖呵を切るロマンであった。
続く