「6連ランドインパクトォっ!!!」
天下無双に振るい、地を叩く音が1つしか聞こえない刹那の間に打ち込まれた鉄塊が地を激しく鳴動させ、敵の群れを吹き飛ばす。
かつて師匠に仕組まれたバトルマスターの修行も、こういうときには役に立つ。
「はっはぁ、どんどん来いや!!」
いくら特製のロマンのハンマーといえど、技の衝撃に耐えられず、柄は曲がり頭は砕ける。
それ故のスペア。
壊れた先から手放し、次から次と新しいハンマーを手に取り振るい続ける。
鬼気迫るロマンに対し、しかし敵も怯まず圧倒的な数の暴力に訴え続ける。
紅ずくめの一団は湧いて出てくるかの如く次から次へと現れた。
(流石にキツいな…)
既に長時間戦い続け、山の如く用意したハンマーもいよいよ最後の一つ。
担ぎ上げようとした掌はすっかり血がにじみ、滑り止めのついたグローブが有ろうともするりと抜ける。
「…しまった!くおぉっ…!!」
間一髪、スカーレットナイトの振り降ろした剣を腰から引き抜いたノコギリエイソードで受け止めるが、見る間にロマンの姿は紅い群れに呑み込まれる。
「…見いぃぃぃつ、け、た」
凍えるように冷たく、淡々としていながら、遥か先まで轟く声が聴こえたのは、その時だった。
鈴のような音が響いた途端、ドサリとロマンを押し潰さんばかりだった魔物達が倒れ伏せる。
そのどれもが、真一文字に腑分けられていた。
「久しいな、大棟梁殿。海底離宮以来か?」
突如助太刀に入った女剣士は、数多の魔物を裂いておきながら一滴も血を寄せ付けていない刀を鞘に納める。
「おお、かげろう姐さん!助かったぜ!!」
「なぁにたまたまだ。こいつらは悪戯が過ぎたのでな。お仕置きしに来た」
「…お仕置き、ねぇ」
ロマンにとってもトサカには来ていたが、どうやら連中は触れてはならない逆鱗を鷲掴みにしたらしい。
「…おっと、話の出来そうなやつ、一匹は残しておいてくれよ?駄目にしちまったハンマーの修繕費と、辺り一帯の補修と…」
「それはあいつらに言うんだな」
「あいつら?」
そろばんを弾き始めたロマンが首を傾げる。
「ケラウノス、出力全開!!」
場に不釣り合いな少女の声が響いた。
「俺の、出番だあああぁぁぁっ!!!」
機械仕掛けの少女は手にした黒き獅子の槍からジゴスパークの雷光を迸らせ、暴走する大地の箱舟の如く敵陣のど真ん中を駆け抜ける。
「何じゃあ、あの俺っ娘!?ドルブレイブんとこの新人か!?無茶苦茶しやがる!」
走り抜ける刹那に見えた黒いヘルメットは、ロマンもよく知るヒーロー達によく似ていた。
しかし、彼らのブラック枠はどちらかといえば寡黙な戦士で、あんなちんちくりんでもなかった筈だ。
手脚が棘だらけで金ピカの装甲に覆われたスーツも、どちらかといえばヒーローでなくヴィランを思わせる。
「保護者も同伴のようだぞ」
かげろうが見上げる先、工房の屋上に腕を組み仁王立つ赤髪のシルエット。
「人々を悪夢で惑わし苦しめた貴様らの所業、断じて許さん!ドルセリン、チャージ!!魔装、展ッ開!!!」
空になったドルセリン管を放り投げるやいなや、オーガの長躯が光に包まれる。
「正義を照らす、情熱の炎!アカックブレイブ、推参!!」
「お~お~、噂をすればアカックブレイブまでお出ましかい!」
アカックブレイブはスタッと、かなりの高さから事も無げにロマンの近くへ降り立つ。
「赤い姿で悪事を働かれては、風評被害を被りかねんからな。あと、今日の私はあの娘のお目付け役でもある」
アカックブレイブは未だに戦場を蹂躙し続けているフタバを見やる。
「…あの娘…。また珍妙なのを連れてきたものだ」
「団子の食い過ぎで、居候している劇団の財政を傾かせたらしくてな。兄に怒られ、私のもとへ出稼ぎに来ている」
「ハハッ!団子好きなたけやりへいとはな!腕前も実に面白い。いつぞやのキラーマシンといい、最近はマシン系モンスターもなかなかどうして可愛いヤツ揃いじゃあないか」
ひとしきり笑ったあと、かげろうは再び刀に手を添えた。
「さて、こちらももう少し、私の大事な許嫁を傷物にしてくれた罰を奴らに与えてやらねば」
かげろうが出会い頭に斬り捨てた敵の数は、ロマンが潰した敵の数に勝るとも劣らない。
しかし物足りないと舌舐めずりする姿に、味方で良かったとロマンは心底安堵する。
「フタバばかりにいい格好はさせておけん」
アカックブレイブもまた、意気軒昂にポキポキと指を鳴らした。
「フタバちゃん、ていうのかい。あの娘だけでも充分そうだが、さらにかげろう姐さんとアカックブレイブまで参戦してくれるなら、俺っちは休んでてもバチ当たんねぇか?」
言葉とは裏腹に、ロマンもまた、ハンマーとノコギリエイソードをしかと握り直し、不敵に微笑むのであった。
続く