「ギガソードにライトフォースを多段付与!【星詠みの理力(スターダストフォース)】!!」
アレスの握る白星剣を中心に、莫大なエネルギーが立ち昇る。
揺らめく青白い炎の如き刀身。
自慢の剣を、アレスは渾身の力を込めてマジェスドレアムへ振り下ろした。
「ぐぬうぅぅぅ…!!!」
「おおおおおおッ!!!」
千載一遇の好機。
アレスは自らを遥かに上回る巨躯に対し一歩も引かずに剣を押す。
やがてスターダストフォースの刃がマジェスドレアムの首から腰にかけて押し込まれ、鮮血の代わりに白く光る粒子が傷口から迸る。
しかし、そこまでであった。
「…いけない!!」
押し込まれた刃が更に食い込むのを厭わず、4本の剣を水平に突き出したマジェスドレアムは竜巻の如く身を捻る。
無尽蔵に繰り出される斬撃を、咄嗟にカバーに入ったヒッサァの槍さばきで凌ぐが、アレスとヒッサァはその身に少なくない切り傷を負い大きく弾き飛ばされ、マジェスドレアムとの間に距離が空く。
アレスとヒッサァに回復の呪文を飛ばしつつ、ブラオバウムは自身のもとにも漂いついた白き燐光に触れる。
「これは…」
邪神から溢れ出したにも関わらず、それはとても暖かく、心を震わす光であった。
「何故こんな…いや…そうか…!」
まだ、望みはある。
「…ここでこの身体を破壊されては、元も子もない。万全を期させてもらおう」
しかしブラオバウムが策を伝える前に、手負いのマジェスドレアムは右手を掲げ、握り締めた。
同時に響く、パキリと目に見えなぬ何かが砕ける音。マージンとフツキ、そしてブラオバウムの精神をここに留める幻灯機が破壊されたのだ。
途端に、3人の姿が霞のように薄れ始める。
「…アレス!もう一度、『星詠みの理力』を!貴方の剣を標にするのです!光はすぐそこに在……」
マジェスドレアムに聞かれようとも叫んだブラオバウムであったが、最期までは間に合わず、驚き戸惑うマージンとフツキ共々、姿は掻き消えてしまった。
「残るは二人か。貧乏くじを引かせてすまない」
「何をおっしゃいますやら。もともと二人で始めたクエストじゃないですか。劇的な展開ってやつですよ」ヒッサァは不利な状況下でもにっこり笑って言ってのけ、クアドラピアーを強く握りなおす。
「たいした魔法使いだな。パーティで一番冷静であるべき者が、既に打ち破られた技を使えと言い残すとは。…愚かな」
「いや、間抜けはお前の方だ」
ブラオバウムと同じく燐光に触れ、何かを悟ったアレスは盾を背に負い、両手でしかと白星剣を握り直す。アレスは正しく、戦友ブラオバウムの言葉の真意を掴んでいた。
「…お前の身体を形作っているものは、悪夢だけじゃない」
相対する者の命を守るため、あえて相手が気絶する程の死闘を演じた女剣士がいた。
相棒を助けるため、機転をきかせて血生臭い戦いを回避させた妖精がいた。
お互いを思い、長時間に渡りギリギリの死闘を演じきったバディがいた。
悪夢と呪いの中にあっても、相手を思いやる心を、皆はけして忘れなかったのだ。
そしてその想いが、マジェスドレアムを構成するエネルギーの中に確かに溶け込んでいる。
「偽りも真も関係ない。アストルティアの民の、そして、オレ達冒険者の絆の力を、舐めるなよ!…ギガソードにライトフォースを多段付与!」
アレスはなけなしの気力を振り絞り、再度白星剣を高く頭上に構えた。
「無駄な足掻きを…いや…何だ?一体何だこれは…?」
狼狽えるマジェスドレアムの身体、その傷口から、次々と光の粒子が零れ落ち、アレスの元へと集まっていく。
やがてそれらは、アレスの掲げる白星剣の放つ刃に、混じるでもなくそっと寄り添っていった。
メルー公仕込みの剣技にフォースを重ねるというアレスのオリジナル、理力の御業の中でも、際立って特別な技がある。
【星詠みの理力】
ギガソードにライトフォースを重ねて生み出される、光の奔流の如き一撃。
相性の良さ故に、その重ねるライトフォースの力に、すなわちその威力に上限はない。
先程よりももっと強く。
更には、自らのライトフォースを添じた光の刃を呼び水に、マジェスドレアムの中に在る光を手繰り寄せる。
マジェスドレアムの傷口から溢れる粒子は留まるところを知らず、今尚悪夢に立ち向かうヒッサァとアレスを励ますようにそっと寄り添っていくのであった。
続く