そうして組まれたドリームマッチが今、幕を開けた。「どすこ~い!!」
「あははははっ!どっすこ~い!!!」
極短距離を詰めるべく、猛然と駆け出す両者。
パァンと肌がぶつかる激しい音と共に、両者の汗が散り、光を受けて虹がかかる。
誰しもが、応援する側の冒険者たちですら、次の瞬間に吹っ飛ぶいももちを想像していた。
「なぁ…にぃ!?」
何より驚いたのは勿論ながらゴオウである。
「凄い凄~い!」
身長差ゆえ、いももちがゴオウの胸板に顔面を埋める形であるが、互いの腰に手を回し、ガッシリと掴み合う。
その足元で、いももちの足首に巻かれたミサンガが魔法陣を伴い淡く光っていた。
「お~~~っとこれは番狂わせだ!いももちの山、ゴオウの海を真正面から受け止めた!びくともしないぞ!…あ、実況は行司と兼任で私、ギブと」
「うりぽが担当するポ!」
再度冒険者側から歓声があがる一方で、偏向実況を懸念する太陰サイドからはブーイングが巻き起こる。
「ええぃ、うるさいポ!!」
一度立ち上がり一喝すると、再び土俵に向き直るうりぽ。
「相当なウェイト差のある両者ですが、これは開幕から実に見応えある展開になってまいりました!いももちの山、足首の強化玩具甲式で自らの重さ、筋力を補助している模様!」
「独自のアレンジとはいえベースは強化ガジェットだポ。武器だけでなく自身にも転用できるのはまぁ当たり前ポね」
いわばドーピング行為というところであるが、卑怯と謗る者は両陣営とも一人もいない。
強化玩具甲式によるブーストをかけているとはいえ、勿論ながら、ゴオウと渡り合っているのは、いももちの冒険者としての研鑽によるベースがあってのものである。
そして、戦うということは、互いに死力を尽くすということ。
持てる手札を出し切り相対することに、敬意こそ払えど批判する謂れなどあるはずもない。
「ヌゥおッ、こなくそヲっ!!」
しかしそこはさすがに、長期の押し合いともなれば、いももちが劣勢。
ピッタリと隙間無くくっつきあった肉の塊は、ジワジワとしかし確実にいももちの背の側の白線に向かい進み始める。
「あと…少ォし…!」
いももちの踵が負けにかかりそうになったその時、ゴオウの眼前から突然ひらりといももちは姿を消す。
タン、と小気味良い音を立てて地を蹴り跳躍したいももちは、そのままゴオウの頭頂に手をつき支点とし、グルっと宙を舞ってゴオウの背後に降り立ったのだ。
「なんとォっ!?」
「そぉれっ!!」
相手を見失いたたらを踏むゴオウの背に、やはり強化玩具甲式の効果を伴った張り手が炸裂する。
「ぶへっ」
砂浜に頭から突っ込み、ゴオウは立ち上がりながら砂を吐く。
冒険者からは歓声が、太陰側からはどよめきが起こる中、ギブは高らかに宣言した。
「勝者、ゴオウの海!」
「え~~~っ!!?」
「はぁ!?」
いももちと冒険者側からは勿論、当のゴオウですら困惑の声を上げる。
「髷を掴むのは反則ポ。その筋肉ダルマは髪が無いから、グレーゾーンではあるポが…そこは厳格に審議したポ!」
再び湧き上がる歓声。
そこには、今回のクエストの結末のごとく、両陣営隔たりは一切ないのであった。
「あははっ、負けちゃったけど、楽しかった!!ねぇ、皆もおいらと相撲しようよ!」
ニッコリと笑いかけるいももちの姿に、観客全員がざわめく。
「やっぱりまず飛ぶのは俺なのね!!?」
フツキに盾にされ、いももちの張り手により尻を抱えて天高く空を舞うマージン。
しばらくの間、浜辺は阿鼻叫喚に満たされるのであった。
回想と共にたこ焼きを平らげ、器を店主に返すと、りんご飴などを引っ掛けつつ縁日の通りを抜け、大きく一つ伸びをする。
「んん~、楽しかったけど、あのおっちゃんくらい遊び甲斐がある人、そうそういないよな~。ん~、強い人が集まる所………。そか!雷神会にでも、遊びに行こっかな?」
まだ見ぬ次なる遊び相手に恋い焦がれながら、青空を見上げるいももちであった。
~完 しかし冒険は続く~