「…なんと!餅というのに米を使っていないのか!?」
いなりの物思いを破るように、少女の声が響いた。
「ああ、わらびという植物の根から作った粉で出来ている。食感も…そうだな、あまり良い例えでは無いが、スライムのようにぷるっぷるだぞ」
確かにお菓子に絡めるのは微妙な所だが、適切な例えには違いない。
キラキラと目を輝かせる少女の様子が、きっと喜ぶであろう義妹達と重なる。
「そこに黒蜜やきな粉をかけて食べるんだ」
「きな粉!好きだ!!」
団子との組み合わせしか知らないが、きな粉は少女の大好物であった。
否が応でもテンションが上がる。
(お腹すいた…)
朝食を抜いて空腹を抱えるところへ、丁寧なプレゼンを聞かされるオマケまでついた。
鳴き声を上げそうなお腹を擦りつつ、ひたすら順番を待ついなりであった。
「ふふ、つまみ食いくらいしたって、バチは当たるまい」
果たして無事目当ての品を手に入れたいなり。
まるで帳のように広がった紅葉の下、ベンチに腰掛けて袋から小分けの小さな笹の葉包みを取り出す。
セットで付いてきた竹の器に同じく付属の竹筒から少し黒蜜を垂らし、楊枝で拾い上げたわらび餅をひと欠片、ゆったりと泳がせる。
蜜をまとってより滑りやすくなったわらび餅を、慎重に口へ運んだ。
「んっ、程良い程良い!」
黒蜜にしては随分と琥珀に近いシロップは、黒糖の風味はしっかりありつつも後味のキレが良く、クセを感じさせない。
あまりに甘いと喉が焼けるようで好きではないが、これならばするするといくらでも入ってしまいそうだ。
「…あ~ん」
「あげませんよ?」
「いけずだなぁ」
2欠片目を食そうとした所で、突然隣に現れて大口を開けたふてぶてしい雛鳥。
「共に朝を迎えた身だというのに」
「ちょっ!…人の多いところで誤解を招くような事、言わないでください!」
剣を交えるどころか、こうして、憧れの人、かげろうのちょっと困った性癖までぶつけられる羽目になったのは、良かったのか悪かったのか。
悪夢王の事件の折、適切で丁寧な傷の手当に加え、材料こそいなりの屋敷のものを使ってであったが一飯の世話になった恩は感じているし、それはまあ感激もしたが、その後、義妹達の誤解を解くのに費やした労力を思い出すと未だにげんなりするいなりであった。
続く