「そこまでです!!」
まさに壁面をよじ登ったさまようよろいが剣に手をかけた所で、ハクトはようやくケルビンに追い付いた。「おやおや、久しいね」
「貴方には大地の箱舟の暴走事件を始め、様々な嫌疑がかけられています。大人しく出頭を願います」
「相変わらず真っ直ぐだな、少年。大人しく従うとでも?それよりも、見てくれたまえよ。前回は紹介もままならなかったが、コレが私の最新最高傑作、ケラウノスマークツーだ!!」
ハクトの制止は全く無視し、ケラウノスマークツーは本体たる壁に突き刺さった剣を引き抜くと、新しい身体を確かめるように、はやぶさ斬りで宙を薙ぐ。
その隣で、さも誇らしげにケルビンは講釈をたれ続けた。
「ケラウノス初期型の最大の問題点は、所詮武器であり自ら動くことが出来ないことだ。おかげで本来従えるべき欠陥機に対し愛着を持ち、創造主たる吾輩に離反するなどという末路に至った。そこで、ヘルメットを通してモンスターを操る機能を搭載したのだ。…しかし何だ、どうにもスカウトアタックが上手く行かなくてな。てっこうまじんに代わる素体を用意するのに随分と時間がかかってしまった」
回収に至るまでこれだけ日が空いた理由はそういうことかと、ハクトも合点がいった。
「おかしな話だな。この私のスカウトだぞ?いかに知性の低いモンスターといえど、従わない理由など欠片もあるまいに」
むしろ懐く理由が1ミリも存在しないが、下手にそこをつついた所でハクトに得はない。
「まあそれはどうでもいい話だったな。どれ、ここは一つ、ケラウノスマークツーの新しい端末の稼働試験に付き合ってくれ給えよ、少年。まあ、君が勝つ可能性は…いや、野暮は言うまい。行け」
クイッとケルビンが顎を引くのが合図となった。
「…!!ボンバー、チャージっ!」
間一髪、展開の間に合ったブレイブジュニアスーツ。唐竹に振り下ろされたケラウノスマークツーを何とか盾で受けたが、その刀身は盾の装甲材に深く食い込んでいる。
「なんて斬れ味…!」
「見た目通りの聖王のつるぎと思わぬ事だ。デモニウム鉱石をふんだんに使っているのだぞ?」
聞き覚えのない材質に戸惑う間もなく、眼前のさまようよろいは引き戻した剣を構え直し、低く身を沈める。
「…うわぁっ!!」
そこから繰り出された、はやぶさを超える4連撃。
初撃は剣で受けたものの、残る三撃は目で追えても腕は追いつかない。
弾き飛ばされるとともに、両膝と右肘に走る痛み。
スーツの装甲が薄いところを的確に狙いに来ている。かろうじて抜けることはなかったが、次に同じ箇所を狙われたら判らない。
「はっはっはっ、ケラウノスマークツーには、古今東西、過去から今に至るまで、数多の剣の達人のデータをインプットしている。さまようよろいと油断せぬことだ」
ケルビンの解説を背に、ケラウノスマークツーの猛攻はなおも続く。
飛び上がり地に打ち付けた剣から奔る放射状の衝撃波。
さまようよろいお得意のキングダムソードの振動波がハクトのスーツを極微細に振動させ、装甲面に無数のヒビが刻まれる。
プログラムされた卓越した剣技のみならず、モンスターが固有で持ち合わせる特技まで使いこなす。
この脅威は、ここで何としても止めなければ。
痛む身体に鞭打って駆ける。
目指すはケラウノスマークツー、ではなく。
「…おっとそうくるか。いや、理には適っている。なるほどな」
慌ててケルビンが取り出した銃の底を剣の腹で叩き上げ、丸腰になったところを後ろから羽交い絞める。
「主はおさえた!剣を置いて…わっ!!?」
ケルビンを盾にする形でケラウノスマークツーに停戦を投げ掛けたハクトであったが、眼前に迫る聖王のつるぎに慌てて回避行動をとる。
「どぅおぉあっ…!?」
無様な悲鳴はケルビンから発せられた。
間一髪ケルビンを抱えてハクトが飛び退いた所を、ケラウノスマークツーの刀身が振り抜かれる。
一歩遅ければケルビンの頭がトマトのようにスライスされていたところだ。
『対象を排除は絶対です。目的の達成のためならば、例え、マスターの生命を引き換えとしても惜しくはありません』
「貴方、人望無さすぎでしょ!!?」
「…むぅ。少々思考回路に改良の余地があるようだ」失敗、問題点、自分の落ち度を比較的素直に認められるのも、ケルビンが道は誤れど天才たる所以でもあるのだ。
続く