「獣臭い。まことに遺憾である。待遇の改善を要求する」
ハクギンやフタバ、機械兵士SBシリーズの調整機能を持ち合わせた意志ある鋭槍、ケラウノスは自らの扱いに不満を漏らした。
「我慢しろ、ケラウノス」
冷たく現状の維持を強いる僚機フタバとその兄弟機ハクギンの肩の間で、大きな猪を頭から貫いたままケラウノスはさながらケバブの棒のような扱いを受けている。
周りを光学センサーで見渡せば、流石に自分たちほど原始的な出で立ちではないが、似たように食材を抱えて列をなす幾多の冒険者の姿が確認できる。
「お~っ、とにかくじゃんじゃん厨房に運んでくれ~っ!!」
台を拵え、高い位置から魔法建築工房『OZ』の大棟梁、ロマンが拡声器を通して指示を飛ばす。
指示が煩雑になるのもやむを得まい、ここ、『OZ』の事務所兼大工房には、先にケラウノスが確認したとおり、ひっきりなしに縁ある冒険者たちが各々用意した食材を手に押し掛けていた。
「ちょっとそこのもっさ…じゃなくて、JBの旦那、列の整理協力頼むぜ」
「仕方ねぇなぁ。所で、他のメンツ知らねぇか?いつも通り、どっか行っちまってなぁ。何処で油売ってんだか」
「ダンの旦那とトーラちゃんならいももちくんと追加の酒や飲み物の調達に出てる、さぼってんのはアンタと、そこ、ほれ、列に並んでる三人連れに絡んでるかげろう姐さんくらいだよ」
ロマンがクイッと顎をシャクった先、黒髪眼帯のエルフの女剣士にしなだれかかってビンタを受けるかげろうの姿があった。
その隣では主の様子にクスクスと笑いを漏らす、かげろう率いる御庭番衆の一人、きみどりの姿もある。
「マージン、フッキー、運搬ロボそろそろ動けるヤツあるか?」
「いやまだだ、さっきの大量の魚が捌ききれてねぇ」「こちらも、まだスパイスと酒の樽、しばらく空きそうにないな」
マージン手持ちの端末には、1から4まで、フツキの端末には5から8までの番号が振られた、マイタウン防衛マシン改め運搬ロボの稼働状況が真っ赤に示されていた。
大廊下に目を向ければ、かつてティードとともに魔博士の一味と渡り合ったウェディの冒険者、ラギアの持ち込んだ大量の魚介類を満載したタラップを引く運搬ロボが渋滞の列を作っている。
「了解した!お~い野郎ども、こっち来い!!いつまでも客に重たい荷物持たせてんじゃねぇよ!」
ホントはロマン自身が飛び出していきたいところだが、この状況下で指揮者が不在となれば惨状は必至である。
ぐっとこらえて工房員に檄を飛ばす。
「いな姉、すっごい人だねぇ」
いなりにビンタされてかげろうが逃げ去ったあと、4本角が特徴的なオーガ、ヤマは姉いなりに驚きを伝えながら、ロマンに急かされた工房員へ肩に担いでいた米俵をひょいと渡す。
「そうねぇ。参加は初めてだけど。これほどの規模とは思わなかった。あ、オスシ、そこ邪魔になってる」「わっ、あ、どうもすみません」
オスシがひょいと退いた所を、山の如く野菜を積んだ大八車がゆっくり通り抜けていくのだった。
続く