どうしたものか。
ハクトは一人、途方に暮れていた。
強敵と渡り合うための頼みの綱だったブレイブジュニアスーツ。
無惨にその刀身は砕け、修理は不可能。
幸いにも、先に試作として作り、自室に保管していた予備のスーツは残っている。
しかし、勿論それよりも完成度の高かった完成型のスーツで、ケラウノスマークツーとはかろうじて引き分けだったのだ。
スーツを失った状況下、ケルビンに抵抗されていれば、自分の勝ちはなかったことをハクトは冷静に受け止めていた。
そのままこのスーツに鞍替えしたところで、ヒッサァの足を引っ張るだけなのは目に見えている。
プラスに捉えて、かつてケルビンにも指摘された、強化プランを試すにはいい機会なのかもしれない。
しかし、力を求めることが正解なのか。
アカックブレイブやハクギン、彼らヒーローとも異なる、ヒッサァの、一流冒険者の生き様を知り、スーツの方向性にも悩みを感じていた。
ここ数日、ヒッサァからのお呼びがかからないのを言い訳に、ハクトは工房でこうして悶々とした日々を過ごしているのだ。
ヒッサァが倒れた知らせを受け取ったのは、まさにそんな時であった。
そして、その知らせを受けたのは、他にも二人。
「こちらです」
訳も分からぬまま、呪いに関するスペシャリストとして、押し掛けたメギストリス兵に連れられ、クマヤンとマユミはメギストリスの宿屋へと踏み入る。
外からは分かりようもなかったが、宿屋の中はメギストリス軍の貸切となり、厳戒体制が敷かれていた。
フロントから客室へ続く階段、フロアの廊下に至るまで、びっしりと居並ぶ鎧姿のプクリポ達の姿に恐縮しつつ、客室の一つへ通された。
「あら?この人…」
明らかにサイズの小さなベッドに膝下をはみ出して寝そべるは、クマヤンとマユミにとっても見覚えのある人物。
ヒッサァの名前までは知らずとも、ふらっと訪れ、名物のイカスミが隠し味のカレーを寸胴鍋一杯分平らげた旅人の姿を、忘れられようはずもない。
「見て頂きたいのはこちらです」
ヒッサァの周りは白衣に身を包んだプクリポ達がパタパタと駆け回り、看病にあたっている。意識を失っている様子なのは気になるが、それこそ専門外、自らの役割に集中すべきと、指し示された大きなガラスケースに目を向ける。
「…なるほど」
呪い絡みで呼ばれたのがようやく合点がいった。
影響を遮断するため、厳重に巻き付けられた魔封じのスクロールの隙間から覗く、常識では有り得ない赤黒い炎。
芯となり燃えているのは窓枠だろうか?
激しく損傷してはいるが、かろうじて原型を垣間見る事が出来る。
「近隣住民と思われる方からの通報で、気絶していたこちらの御仁とともに発見されました。唯一、ヒャド系呪文で勢いを削ぎ、こうして封じる事ができましたが、それ以外の方法では、例えどれだけ大量の水をかけようとまったく消える気配がなく…」
ここまでの道中を案内してくれた隊長格と思しきメギストリス兵の証言に耳を傾けつつ、スクロールの隙間を縫って様々な角度から中身を確認する。
「う~む…初めて見るな…。マユミはどうだ?」
顎に手を添え、首を傾げるクマヤンに対し、マユミは腕を組んで記憶を手繰る。
「ちょ~~~っと待ってね。なんかこう…ここまで来てるのよ、ここまで。何だったっけかなぁ………」
そう言って、喉元を指差すマユミ。
世にも珍しい妖精族であるマユミは、見た目からは想像もつかない永き時を生きている。
記憶を探るのも一苦労なのだ。
邪魔はせぬように離れ、メギストリス兵に断りを入れた上で現場で回収されたヒッサァの荷物に目を通す。
中でも気になったのは、何らかの計測装置の取り付けられた球体。
機能は停止しているようで、計測装置の緑色の小型スクリーンにはフラットな波形が今なお描かれ続けている。
尚も装置を調べようとしたところで、計測装置に小さなメモ紙が貼り付けられている事に気付く。
「ヒッサァさん…!?」
扉を勢いよく開き、ハクトが飛び込んで来たのはその時だった。
続く