「と、いうことがあったわけ」
舞い戻って現代。
クマヤンのみならず、いつしかプクリポ達もすっかりマユミの話に聴き入っていた。
「ふぅむ。つまりはその、500年前に砕かれたレイダメテスの残骸から生まれたモンスターが、このような炎をまとっていたと」
「その通り!」
「むぅ。…ちなみに、その、昔話に出てきた檻とやら、その後どうなったんだ?」
「さあ?」
「…だと思った」
詰まる所は手がかりはゼロに等しいわけだ。
同じ頃。
フタバは大破した大地の箱舟から生まれ変わった劇場のすぐ近く、木に登って枝に腰掛け、顔面と大差ないサイズの虎酒家特製肉まんをがぶりと齧ると、横目で窓から中を覗き込んだ。
「こら、あなた達、大人しく座りなさい!」
「「「は~いは~い」」」
「はいは一回!」
命を狙われているから、などと言える訳もなく、ヒッサァの提案で、イザベラ達孤児院の面々は観劇も兼ねてのショートステイに訪れているのだ。
ハクギンや劇団員の手も借りて、遊び盛りの子供達を席に座らせ食事をとらせようと奮闘する金髪のシスターの姿を、フタバはただじっと見つめていた。
「優位提言。ハクギンの手伝いをするべきでは?」
二口目を齧り取るフタバに対し、その背に負われた意思持つ槍、ケラウノスは至極当たり前の提案を行う。「…あいつは、嫌な匂いがする」
「各種センサーで確認…発言の根拠となる要因は見当たらないが?」
「………」
それきり、フタバは黙々と肉まんを平らげる。
しかし変わらずの視線の先、イザベラの首元では、月を象ったペンダントが静かに揺れていた。
「…ねぇ、ハクトってば、大丈夫なのかしら?」
夫婦水入らずの旅行から戻ってみれば、息子は工房に引きこもり、マイタウン区画だから良いものの、昼と言わず夜と言わずトンテンカンテン音を響かせ何かを作り続けていた。
ティードでなくとも不安に思って然るべき状況である。
「大丈夫大丈夫、チラッと覗いてみたけどさ。本気の時の俺みたいな顔してたよ。ふふっ」
あんな顔もできるんだな、とマージンは口もとがほころぶ。
「………いつの話?」
しかしおどけてみせたわけでもなく、ティードの顔は、真剣そのものだった。
「いやさ多々あったでしょうがよ!?」
そんな両親の心配はおろか、そもそも帰宅したことすら気にもとめず、ハクトはその持てる才能のすべてを注ぎ、スーツの改良にあたっていた。
ようやく定まった改良プランの骨子は、もちろんコントラクションオーブである。
確かに武闘家を主とするヒッサァの魔法力は高くはない。
しかしそれを抜き差ししたとして、そもそもコントラクションオーブは生身で扱える代物ではなかったのだ。
ならば、何かしらのエネルギーで魔法力の代替は出来ないか。
工学に疎いヒッサァは、その閃きを形にする術を、信頼するハクトに託したのだ。
コントラクションオーブに取り付けられた装置。
そこには詳細に、魔法力の消費状況の推移が記録されていた。
その確かな情報をもとに、図面上にペンを走らせ、装甲材を加工する。
ギガボンバーの爆発エネルギーを変換しコントラクションオーブへ注ぎ込むアタッチメントに、長時間の使用に耐えうるだけのギガボンバーを積載するベイロード、そして、圧倒的に不足する戦闘力を補うための防御力と、最後に、ヒッサァへの憧れを詰め込んで。
「…完成だ」
徹夜の作業に臨んだのは4日か5日か。
コントラクションオーブを埋め込んだ1帖の盾が、遂に形をなしたのであった。
続く