偽のレオナルドは更に増え5体。
追加された一体は姑息にもミアキスとイルマを狙い矢を放つ。
「いけない!」
意図して二人と敵との距離を離そうと立ち回っていたのが逆に災いした。
ヒッサァとハクトの網を抜け、漆黒の矢の一本が蛇のような軌跡を描いてミアキスとイルマに迫る。
「なに…!?おまえ…ばッ」
すんでの所で漆黒の矢は金色の線に穿たれた。
影の驚きの声は悲鳴とともに掻き消される。
極細の粒子ビームかと見紛う速度で駆け抜けた矢は、そのまま最短距離で一直線に偽レオナルドの一体の頭部を撃ち貫いたのだ。
ふんだんにライトフォースを込められた矢は遥か先まで流れ星のように軌跡を残し、頭を穿たれた影は矢から注ぎ込まれた光によって溶けて消えた。
「狙いが姑息過ぎ。だいたい、曲撃ちなんてのは、意表を突ける一発目か、大道芸でやりなよ。乱発するのは阿呆の所業」
「ハクギンくん!?ありがとう!助けに来てくれたんだね!!」
思わぬ援軍に、ハクトから歓喜の声があがった。
「…?」
しかし当のモードレオナルドに転じたハクギンブレイブはハクトの視線を受け流し、後ろに誰かいるのかと訝しげに振り返る。
「…ハクギンくん?」
「ん、ああすまない、そういえばそうだった」
「?」
「説明すると長い。…また攻撃が来るよ」
「あ、うん!!」
「やはりこの姿は身体への負担が大きすぎるな。何とかこの手でケリをつけたいが…。あと、2発といったところか…」
ハクギン、そしてハクギンブレイブの記憶を辿り、オーガの冒険者は未知数であるが、スーツの少年の方は託すに足ると判断する。
足元に飛来した矢を避け、跳躍のついでに2本の矢を番え、光を放つ。
それらは戸惑う間も与えずヒッサァとハクトの背に刺さり、体内へと溶け込むように消え、二人にライトフォースを付与した。
「どなたか存じませんが、ありがたい!」
「申し訳ないけど、次の一発でこちらはガス欠だ。それで偽物共と球っころは分断する。とどめは君たちに任せるよ。ライトフォースはせめてもの手向けと思ってくれ」
やはり先と同じく、どうやって分断するのかと二人が尋ねる間もなく、だん、と地を大股で踏みしめたハクギンブレイブは最大限まで引き絞った一撃を放つ。
言葉の通り、地を割り進む矢はアストルティアの各地に見られる光の河の如き壁を発生させ、漆黒の太陽と影達を分断するついでに影の一体を縦一文字に叩き斬った。
残る三体の影はヒッサァが、漆黒の太陽はハクトが、それぞれに相手を定め、混乱の最中の敵めがけ、その隙を逃すまいと駆け出していく。
「ちぃっ、この姿、接近戦は分が悪い!」
ヒッサァに肉薄され、影達はレオナルドの姿を放棄し、古代紋様の刻まれた大剣をたたえしとんがり頭のエルフの剣士を象る。
それはかの真の太陽の戦士団、切り込み隊長を務めた漢の姿なのだが、ヒッサァは知る由もない。
「…思うに。あなた方は知識として記憶を覗き見る程度なのでしょうね」
例えば、この千載一遇のチャンスを作ってくれた、深緑の弓使い。
彼ならば、距離を詰められたとて、慌てふためくでもなく凌いでみせるだろう。
3方向から振り降ろされる大剣を掲げた槍で受け止め、力を込めた事でさらに太ましく膨らんだ剛腕でもってそのまま槍を振り抜き影達の体勢を崩す。
実に残念だ。
途方もない年月を重ねた魔物には、特有の気配がある。
この影達も例に漏れない。
そして敵の特性を鑑みるに、弓使いにせよこの大剣の主にせよ、恐らくこの世で手合わせの叶わぬ、古の猛者に違いないのだ。
この程度のはずがない。
今相手にしているのは、伝説に名を連ねるかもしれない戦士の、しかしただのハリボテだ。
武に生きる者として、それが残念でならない。
「…このような冒涜、見るに耐えません。終わりにしましょう」
脚を払うようにぐるりと槍を振るい、3体の影を巻き上げる。
その無念も全て、今は捨て去り、眼前で折り重なる影達めがけて、ただひたすらに雑念を削ぎ落とし純粋に全力を込めた一発の正拳を繰り出す。
『打成一片!!!』
大砲にも負けず劣らぬ轟音とともに、ライトフォースも乗算されたヒッサァの拳が着弾する。
確かな手応えがあった。
決着がつき、ちらりとハクトの戦場を見やる。
影達と漆黒の太陽を分断する光の壁はまた、ヒッサァとハクトをも分断していて、その様子は掴めない。
しかしハクトなら、あの頼もしい相棒なら何の心配もいらない。
「さて、お二人の手当をしなくては」
であればと、光に焼かれながら彼方へ吹き飛んでいく影たちを尻目に、イザベラとミアキスの方へと踵を返すヒッサァであった。
続く