『グオオオォォォ!!』
灰の積もる荒野に、鉄の咆哮が響き渡った。
ビッグホルンの旋律は失われ、かつては風車の丘に天高くそびえ立っていたキラキラ大風車塔も、無惨に折られて既に久しい。
宇宙への脱出の道も絶たれ、アストルティアの民は確実な滅びの道を辿っている。
そも、ゴフェル計画を発動したとて、相手は老いを知らず、今この瞬間も無限に生産され続けているマシン系モンスターである。
虚空の空で何百、何千年待った所で、甲斐のあるものかどうか。
かつては正義の象徴であったドルセリオンも、その身に傀儡の鎧をまとい、虚ろな瞳でアストルティアの民の最後の砦に攻撃を続ける。
右腕側部に張り付いた漆黒のドルレーサー、延伸されたフロントフォークに支えられた前輪は凶悪な回転ノコギリと化し、隔壁を切り裂かんと火花を散らす。
その様子を、アカックブレイブは基地最奥部のモニターを通して苦々しい思いで見つめた。
『駄目よ、アカックブレイブ』
自らの納まるカプセルのハッチに手をかけようとして、幾重にガラスを隔てて響く博士の声に阻まれる。
「しかし!」
『この作戦が成功すれば、全てが覆るの。そしてその時助かる数多の人々の中には、もちろん私達も入っている』
「くっ…」
確かに、もはや他に手はないのだ。
アカックブレイブの横たわるコクピットのようなカプセルが浮き上がり、その周りを円環状のパーツが幾重にも取り囲み高速で回転を始める。
それに伴い、アカックブレイブの腕に装着された年代を指し示すスカウターが不規則に乱れ、でたらめな数字を次々に羅列する。
装置の動きはなおも加速し、もはや途切れ目の無い銀の球体にしか見えないほどになった時、目を覆わんばかりの緑色の閃光とともに、アカックブレイブの姿はルーラとはまた異なる軌跡を残して掻き消えた。
『頼んだわよ、………』
友の名を呼んだ博士の言葉は、悪の傀儡と成り果てたドルセリオンが隔壁を踏み抜いた轟音に飲まれ、アカックブレイブの耳に届くことはないのだった。
「ここは…くっ…成功、したのか…?」
洪水のように雨が降りしきる中、地に投げ出されたアカックブレイブは意識を取り戻す。
ボディアーマーと同じ紺色の髪が雨で顔面に貼り付いている。
塞がれた視界を乱暴に掻き分け、震える腕を引き寄せてスカウターを覗きこむが、盤面に大きな亀裂が入り年数表示は消えていた。
しかし、見上げれば暗雲に向かいそびえ立つキラキラ大風車塔が目に入る。
それは何よりもあきらかな、ここが先程までと違う時間である証であった。
「やった…ぞ…皆…」
呻くように呟くと、アカックブレイブは意識を失い、うたれるままに雨に濡れるのだった。
続く