基地外縁、既にぽっかりと穴が空き、外の光が射し込む天井の穴を更に切り拡げんと、回転ノコギリが火花を散らしている。
「部分変形接続っ!ドルセリオンアーム!!」
ドルセリオンに合体時はその両腕となる愛機ドルダイバーをガントレットのように身にまとい、刃を恐れず真っ向から殴りつける。
反撃は予想外だったのか、大きく跳ね除けられていくドルバリオンの右腕を追うように、ダイダイックブレイブは外へと飛び出した。
巨大な腕のバランスを取るため、かの伝説の魔獣ガルドドンのように前腕を起点に体勢を整え、あらためて対峙するドルバリオンの異様に息を呑む。
「待機中だったか、ダイダイックブレイブ!すまんが、まかり通る!!………しかしそれにしても何だその体型」
「ええっと…」
飛び込んでみてもやはり理解の及ばない状況に、ダイダイックブレイブはフリーズを余儀なくされる。
敵巨人の肩に佇む赤いスーツは、腕部にこそ何やら計器類のようなものが取り付けられているが、やはり見慣れたアカックブレイブのものに見える。
しかしトレードマークの燃えるような赤髪は、ボディアーマーと同じ藍色に染まっていた。
「いつの間にそうまで腹回りが増長したんだ?」
「いや、こないだ会った時と体重は別に…」
「見え透いた嘘をつくな!」
「…えええ~っ?」
赤の他人かと思えば、一方こうして如何にもセ~クスィ~らしいといえばらしい説教を受けている。
しかし何か、何処か、はっきりと言葉に出来ない違和感があった。
「…とにかく!これ以上の破壊行為は許さない!」
ダイダイックブレイブは背後で緊急隔壁が閉まる音を確認し、鋼鉄の拳を構える。
「まかり通ると言った!」
切り替えと思い切りの良さはやはりアカックブレイブだ。
躊躇いなくドルバリオンの右腕がダイダイックブレイブに目掛けて振るわれる。
「真っ向唐竹!分かり易い!!」
回転する刃の両サイドから、ドルセリオンアームで白刃取った。
そのまま投げ払いたい所だが、如何せんウェイトの差があり過ぎる。
辛うじて軌道を逸らし、刃が地を抉ることにより巻き上げられた砂がダイダイックブレイブの背を遥かに超えて立ち昇る。
砂の壁を隠れ蓑に忍び寄り、体勢を崩すべく側面から巨人のふくらはぎにラッシュを叩き込む。
「なかなか、やる!」
しかし、ダイダイックブレイブの姿が砂に隠れる寸前、わずかに動いたその目線から、次の行動を予測したアカックブレイブはドルバリオンをホバー走行に切り替えており、拳は脚部を確かに捉えたものの、ドルバリオンは砂漠を滑るように衝撃を受け流す。
「そいつはどうも!!」
嫌味にしか聞こえなかった称賛に叫びを返すダイダイックブレイブだったが、次の瞬間に青褪める。
「マジかっ…!?」
ドルバリオンの肩部にあたる、ジェットドルボードのミサイルハッチが展開し、数えるだけでも憂鬱になる本数の煙が上空へ真っ直ぐ棚引いた。
灰色の軌跡はやがて緩やかな曲線を描き、ダイダイックブレイブ、ひいては基地中枢を目掛けて加速を始める。
「すまんおきょう博士…。これは護りきれない!」
勇気と無謀の違いを、ダイダイックブレイブはメンバーの中で一番深く理解している。
それでも、詫びを入れつつも、ダイダイックブレイブはミサイルの群れへと真っ向から立ち向かう。
魔装の全力で宙に飛び上がり、一発、二発、ドルセリオンアームを操ってミサイルを殴って堕とす。
しかし当然ながら至近距離で起こる爆発にその身体は揉まれ、間を抜けたミサイルが一発、また一発と砂漠に着弾する。
ドルバリオンは元より、ケルビンにより対ドルセリオン、ひいては対超駆動戦隊ドルブレイブを想定して設計されている。
着弾したミサイルは、バンカーバスター。
山をくり抜き、はたまた、地中奥深くに潜む敵基地を討つ為、ミサイルはモグラの如く地を進み、やがて基地へと辿り着く。
「…理由くらい言い残していけっての、クソったれ」爆風により遠くまで運ばれて、すっかり魔装もダメージで解除されてしまい地にうずくまるネコギシは、天を焦がす基地爆発の火柱に照らされながら、目的を果たし去っていくアカックブレイブの背中を見つめるのだった。
続く